石井氏のサイバー方針とフィジカル方針の説明と同様に、山本氏のシステム方針の説明もインフラサービスに力点が置かれた。同氏は「これまで2回の技術戦略の説明では、アーキテクチャや戦略に重点を置いてきた。今回は、インフラサービスの提供に向けてより実践的な段階に入っていることを伝えたい」と強調し、インフラサービスの5W1Hについて解説した。
まず5W1Hの「When」については、東芝Nextプランのフェーズ2〜3に当たる2020〜2025年になる。そして2020年までの2年間のうち2018年は、CPSにおける制御とサービスをという2つの目的を1つのアーキテクチャで表現するTIRAの策定とリリースを進め、2019年度末には「TOSHIBA SPINEX Suite」として12種類のTORA準拠サービスを発表している。「東芝は強いシステムとデバイスを持っている。これら強いOT(制御技術)を持つ企業には、こういうレファレンスアーキテクチャが必要と考え策定したものだ」(山本氏)。
TIRAで最も重視しているのは、他のシステムやデバイスとスムーズにつながるためのAPIの定義と、つながることによってリスクとなるサイバー攻撃に備えるためのセキュリティアセスメントだ。APIの定義ではOPENAPIやWSDL(Web Services Description Language)といった業界標準を前提とし、セキュリティアセスメントも業界標準となる経済産業省やNIST(米国標準技術研究所)のサイバーセキュリティフレームワークに基づいて実施している。
そして5W1Hのうち「How」と「Where」については「進化するインフラサービスの実現」の観点から説明を行った。まず、どのようにサービスを構築するかという「How」のベースになるのは、前回の技術戦略で発表したIoTサービスを量産する工場「Toshiba IoT Service Factory」の延長線上にあるプロジェクト「東芝IIoT(産業用IoT)共通基盤サービス」である。これにより、SIをやらない開発、進化するインフラサービスを実現するライフサイクル管理、サービス進化のための「束ねる」「拡める」「つなぐ」という3つの方針、共通基盤サービスによる開発と運用による生産性向上を可能にする。
これらの中でも難題なのが、Toshiba IoT Service Factoryが担う「SIをやらない開発」だろう。山本氏は「オーダーメイドのスーツの専門店に、いきなりA体やB体などといった標準品を作らせるのは難しい。基本的には、DevOpsによる自動化と可視化でIIoTサービスの開発と運用を効率化していくことになるが、IIoTサービスの進化の方向性に一定のパターンがあることを活用できると考えている」と述べる。実際に、IoT活用のステップとしては、まずは可視化、見える化からスタートし、そこで収集したデータを使ってAIなどで解析を行い、最後に解析結果を基にしたフィードバックをアクションとして返すという流れは一般的だ。
また、ユーザーインタフェースについても「TOSHIBA SPINEX Design System」を基に一貫したルック&フィールを提供する。この取り組みは2021年に全世界の東芝グループに展開する計画である。
そして、顧客にサービスを届けるための「Where」では、IIoTサービスのマーケットプレースとなる「TOSHIBA SPINEX Marketplace」を2020年12月からグローバルリリースする。同マーケットプレースは、特徴あるIIoTサービスを体験するためのショールームとしての機能から展開を始める。ただし、今後は決済機能を追加することにより、顧客からの要求があればショールームの技術を素早く売り上げにつなげられるようにする。「既に営業が付いている顧客以外、特にグローバルに広く展開していくには、こういったショールーム的なものが必要だ。東芝のIIoTサービスが分かりにくいという意見もあるが、このショールームでその効果を分かりやすく見せる。単一のデバイスを使ったシンプルなサービスであれば、ショールーム売り上げにつなげることは容易だ。決済機能の追加はそのためのものだ」(山本氏)。
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