以上のことから、「市場に出ない1個モノ」と「市場に出る量産モノ」では設計に必要な知識に大きな差があることを分かってもらえたと思う。冒頭のエピソードでお伝えした介助器具に関しては、コスト管理の知識がなかったばかりに、量産して販売しても損することになってしまった。液体撹拌装置に関しては、信頼性の知識がなかったばかりに、輸送中に壊れてしまったのだ。
「市場に出る量産モノ」、これがつまり「製品」である。そして、その「製品化」には、
をもって設計されなければならないのである(図4)。
製品化には“その他の知識”も必要だ。1つは「サービス性」である。製品は必ず壊れる。壊れたときには、壊れた部品を交換しなければならない。壊れる可能性のある部品は取り外しができ、また元の状態に戻せなければならない。「製品化」においては、それを念頭においた設計が必要になる。
もう1つは「金型作製」である。量産には金型がつきものだ。一般的に毎月数百個以上の単位で生産される製品は、金型を作製した方がコストメリットは出やすい。また、樹脂製部品の量産には金型が必要となる。最近は3Dプリンタでも部品によっては量産できるが、金型を作製する部品はそれを前提とした設計スキルが必要だ。
前述の知識をもって設計すれば、製品本体を作ることはできる。しかし、製品とは製品本体だけではない。梱包(こんぽう)材や取扱説明書は必ず新規に作製し、ポリ袋や付属品、消耗品なども同梱する必要がある。つまり、これらを設計する人と時間、部品コストも企画時には念頭に置いておく必要があるのだ。
「製品化」にはCADで設計する以外に、最低でも次の知識と仕事が必要になる。
これらの存在を理解し、知識とスキルを身に付ければ、満足な製品を設計、つまり「製品化」することができるのである。また、資金と時間を有効に使うためにもぜひ知っておいてほしい知識である。(次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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