それではこうした「話をかみ合わない」状況をどうやって乗り越えるべきなのでしょうか。
それで、矢面さんは専務の話を聞いて、どうするつもりなの?
そうですね。1つはロードマップを共有するということだと思います。製造現場のスマート化への取り組みも、現場の改善活動だけのつもりで取り組んでいるわけではありません。まずはデータ活用の土台となる「データ取得」を進めるために、見える化での改善効果が出そうなところからデータ化を進めているわけです。そのデータを取得した後のビジョンや道筋を工場外まで含めた方向性と合わせるということが重要だと感じましたね。
素晴らしいわね。その他には何かある?
ロードマップの理解を得た上でというのが前提にはなると思うのですが、小さいサイズでいいので現場から専務の求める情報レベルまでを含めた実証を行うことだと考えました。製品やラインの情報から、経営情報などを組み合わせてリアルタイムで示せることで何ができるのかを実際に示していくということですね。
いいわね。
これをできれば、1ラインだけではインパクトが薄いので、他工場で同じ製品を作っているラインの情報も組み合わせようというように現場で取り組む上でも、新たなヒントが得られると思いました。
とても有意義な話ができたじゃないの。
そうなんです。新たなモチベーションがわいてきましたよ。
さて、ここまで「経営層」と「現場層」のスマートファクトリーの見え方の違いと、進め方について紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
スマート工場化の取り組みの中では「PoC倒れ」や「PoC地獄」などの言葉が飛び交うほど、実証でうまくいかずに終わるケースが非常に多く見られ、これが、スマートファクトリー化の意欲を下げる1つの要因になっています。同様の現象は日本だけに当てはまるわけではありません。世界経済フォーラム(WEF)では、第4次産業革命をリードする世界で最も先進的な工場を「ライトハウス(Lighthouse、灯台=指針)」と位置付け、「グローバルライトハウスネットワーク」として共有しているのですが、その取り組み趣旨の中に「“pilot purgatory(パイロットの苦行)”による立往生を乗り越える」という言葉があるからです。
正しいPoCを進める意味でも、今回紹介した「ロードマップを共有する」や「ステークホルダー全てを含みつつスモール化した仕組みを動かす」などは大きなポイントになることだと考えます。
次回は、今回と同様にエンジニアリングチェーンとしてのスマートファクトリーについて取り上げたいと思います。
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