「スマート工場」の見え方はこんなに違う、現場視点と経営視点のギャップ:いまさら聞けないスマートファクトリー(2)(3/3 ページ)
それではこうした「話をかみ合わない」状況をどうやって乗り越えるべきなのでしょうか。
それで、矢面さんは専務の話を聞いて、どうするつもりなの?
そうですね。1つはロードマップを共有するということだと思います。製造現場のスマート化への取り組みも、現場の改善活動だけのつもりで取り組んでいるわけではありません。まずはデータ活用の土台となる「データ取得」を進めるために、見える化での改善効果が出そうなところからデータ化を進めているわけです。そのデータを取得した後のビジョンや道筋を工場外まで含めた方向性と合わせるということが重要だと感じましたね。
ロードマップの理解を得た上でというのが前提にはなると思うのですが、小さいサイズでいいので現場から専務の求める情報レベルまでを含めた実証を行うことだと考えました。製品やラインの情報から、経営情報などを組み合わせてリアルタイムで示せることで何ができるのかを実際に示していくということですね。
これをできれば、1ラインだけではインパクトが薄いので、他工場で同じ製品を作っているラインの情報も組み合わせようというように現場で取り組む上でも、新たなヒントが得られると思いました。
そうなんです。新たなモチベーションがわいてきましたよ。
さて、ここまで「経営層」と「現場層」のスマートファクトリーの見え方の違いと、進め方について紹介してきましたがいかがだったでしょうか。
スマート工場化の取り組みの中では「PoC倒れ」や「PoC地獄」などの言葉が飛び交うほど、実証でうまくいかずに終わるケースが非常に多く見られ、これが、スマートファクトリー化の意欲を下げる1つの要因になっています。同様の現象は日本だけに当てはまるわけではありません。世界経済フォーラム(WEF)では、第4次産業革命をリードする世界で最も先進的な工場を「ライトハウス(Lighthouse、灯台=指針)」と位置付け、「グローバルライトハウスネットワーク」として共有しているのですが、その取り組み趣旨の中に「“pilot purgatory(パイロットの苦行)”による立往生を乗り越える」という言葉があるからです。
正しいPoCを進める意味でも、今回紹介した「ロードマップを共有する」や「ステークホルダー全てを含みつつスモール化した仕組みを動かす」などは大きなポイントになることだと考えます。
次回は、今回と同様にエンジニアリングチェーンとしてのスマートファクトリーについて取り上げたいと思います。
≫連載「いまさら聞けないスマートファクトリー」の目次
- スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。
- 見えてきたスマート工場化の正解例、少しだけ(そもそも編)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第28回となる今回は、スマート工場化において見えてきた正解例について前提となる話を少しだけまとめてみます。
- “不確実”な世の中で、企業変革力強化とDX推進こそが製造業の生きる道
日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第2回では、“不確実性”の高まる世界で日本の製造業が取るべき方策について紹介する。
- エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。
- 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。
- 自律するスマート工場実現に向け、IoTプラットフォーム連携が加速へ
製造業のIoT活用はスマート工場実現に向けた取り組みが活発化している。多くの企業が「見える化」には取り組むが、その先に進むために必要なIoT基盤などではさまざまなサービスが乱立しており、迷うケースも多い。ただ、これらのプラットフォームは今後、連携が進む見込みだ。
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