成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。第3回では、エンジニアリングチェーンの連携を切り口に、製造現場と設計部門の連携の意味を紹介します。
スマートファクトリー化は製造業にとって大きな関心事項であるにもかかわらず、なかなか成果が出ないという課題を抱えています。本連載では、スマートファクトリーでなかなか成果が出ないために活動を縮小する動きに危機感を持ち、より多くの製造業が成果を得られるように、考え方を整理し分かりやすく紹介します。
第1回の前回は、スマートファクトリー化を実現するには非常に多くの部門が関係するために、製造現場だけでなく「それぞれの部門にとってのスマートファクトリーを整理しなければ会話がかみ合わない」ということをお伝えしました。第2回では経営者の視点をお伝えしましたが、第3回となる今回は、エンジニアリングチェーンの連携を切り口に、スマートファクトリーにおける製造現場と設計部門の連携の意味を紹介します。
本連載は「いまさら聞けないスマートファクトリー」とし、スマートファクトリーで成果がなかなか出ない要因を解き明かし、少しでも多くの製造業がスマートファクトリー化で成果が出せるように、考え方や情報を整理してお伝えする場としたいと考えています。単純に解説するだけでは退屈ですので、架空のメーカー担当者を用意し、具体的なエピソードを通じて、ご紹介します。
従業員300人規模の部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長である矢面辰二郎氏はある日、社長から「第4次産業革命を進める」と指示され途方に暮れます。そこで、第4次産業革命研究家の印出鳥代氏に話を聞きに伺い、さまざまな課題をクリアしていきます。
矢面 辰二郎(やおもて たつじろう)
自動車部品や機械用部品を製造する部品メーカー「グーチョキパーツ」の生産技術部長兼IoTビジネス推進室室長。ある日社長から「君、うちも第4次産業革命をやらんといかん」と言われたことから、どっぷりのめり込む。最近閉塞感にさいなまれている。
印出 鳥代(いんだす とりよ)
ドイツのインダストリー4.0などを中心に第4次産業革命をさまざまな面で研究するドイツ出身の研究者。インダストリー4.0などを中心に製造業のデジタル化についてのさまざまな疑問に答えてくれる。サバサバした性格。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
さて、前回のおさらいです。第1回では「スマートファクトリー」には幅広いステークホルダーが存在し、それぞれの認識にずれがあることから目的が定まらずに成果が出ない状況が生まれることを指摘しました。第2回では、その中で特に経営者と製造現場の認識の違いについて掘り下げて紹介しました。
その中で、矢面さんは専務と話し合い、それぞれの関心事の違いに気付いたのでした。
(専務は)工場の中という観点よりも、サプライチェーンの前後の工程とか、工場間とか工場外と自動的にデータ連携ができるという点が「スマートファクトリーの価値」だと考えているように感じました。
そこで、それぞれの違いをすり合わせるために必要なことを考えたのでしたね。
1つはロードマップを共有するということだと思います。製造現場のスマート化への取り組みも、現場の改善活動だけのつもりで取り組んでいるわけではありません。まずはデータ活用の土台となる「データ取得」を進めるために、見える化での改善効果が出そうなところからデータ化を進めているわけです。そのデータを取得した後のビジョンや道筋を工場外まで含めた方向性と合わせるということが重要だと感じましたね。
また、それに伴う実証なども進める必要があるとしていました。
ロードマップの理解を得た上でというのが前提にはなると思うのですが、小さいサイズでいいので現場から専務の求める情報レベルまでを含めた実証を行うことだと考えました。製品やラインの情報から、経営情報などを組み合わせてリアルタイムで示せることで何ができるのかを実際に示していくということですね。
繰り返しますが「スマートファクトリー」という概念は幅広く、1つの企業の中でもそれぞれの部門や立場によって、言葉が描く意味も目指すもの、目標や成果も全て変わってきます。そのすれ違いが「目的の不一致」「全体最適化できない」「描いた成果が得られない」ということにつながってきていると考えます。特に経営陣と製造現場の考え方のギャップが大きい場合も多く、それぞれの持つイメージをすり合わせながら進めることが特に「現場力」が強い日本の製造業では必要になると考えています。
さて、今回はこの「すれ違い」の問題をさらに取り上げ、スマートファクトリーにおけるエンジニアリングチェーンの融合と、設計部門と製造部門の考え方の違いについて取り上げたいと思います。
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