今回のコロナ禍によって環境問題への意識の変化が見られ、持続可能な社会転換に向けてのイノベーションが期待されている。
コロナ禍では国境が閉鎖され、グローバルサプライチェーンの脆弱さが浮き彫りとなった。日本は多くの資源、食料、原材料を輸入に頼っていることから自給自足への取り組みが必要となっている。また、輸入に頼っているものを環境負荷の低い原材料に移管することで、環境対策と強靭なサプライチェーン構築の両方を実現することが可能となる。そのための対策としては、3R(リデュース、リユース、リサイクル)、環境材料・バイオ生産(バイオ由来高機能マテリアル、スマートセルによる物質生産)、プラスチック材料(バイオプラスチック、海洋生分解性プラスチック)、再生可能エネルギーおよびエネルギーシステム(石油、石炭からの脱却)の4つがある。
3Rでは、コロナ禍で食料の生産と消費の流れが大きく変わったことで、従来よりも食品の廃棄が増加している状況がある。災害や疫病に対しても強靭な食のサプライチェーン構築が必要のようだ。また、コロナ禍で医療・介護などの現場での廃棄物が一時的に増加し、活用できないまま焼却するほか、リサイクルの送り先の国がロックダウンでのため、輸出できないなどの現象が起きている。そのため、改修したモノの分別・選別を行うシステムの無人化、効率化、リサイクル原料の用途の多様化などが期待されるイノベーションとなる。
この他、医療品やマスクなどの保護具などが急激な需要増となったが、これらに対応することも必要とされる。化学製品の中間体は、海外依存度が高いことが要因の一つだが、国内生産へとシフトするほか、連結フロー合成などサプライチェーンに対してイノベーションを起すことが望まれる。一定水準の資源受給率を確保するためには、新しい未活用資源の開発や、多様な資源を効率良く変換する技術などのイノベーションが環境材料・バイオ生産分野で期待されている。
また、コロナ禍対策で、デリバリー・テークアウトで使用されるプラスチック製品が使われるケースが増える中で、焼却処理の増加が懸念される。そのためプラスチック原料の植物化の推進や生分解性化に関する技術開発が重要となる。
持続可能なエネルギー社会を実現するには、日本のエネルギー安全保障と内需・雇用機会拡大などのため、再生可能エネルギーへの大規模な移行が必要だ。発電設備を山、畑、海などでの設置に加えて、都市における再生可能エネルギー拡大のための強化策が求められる。再生可能エネルギーを大量に導入するようになるとコロナ禍だけでなく、大規模災害も含め急激なエネルギー需要供給の変化に耐えられるシステムの強靭性強化策の確立が指摘されている。
また、技術開発以外でもコロナ禍後の社会においてイノベーションが必須となり、その一例としてスタートアップ企業との共創とそれを支える新しい仕組みも望まれる。
COVID-19は、これまで当たり前と考えていた緊密なコミュニケーションやサプライチェーンの在り方に変化を求めるものとなった。伊藤氏は「レジリエントなエネルギー社会、強靭なサプライチェーンを実現すること、さらにデジタル対応都市のコンセプトをベースにし、今回示した技術を融合することで世界の国々の実情にあった社会インフラシステムを提案することにより、コロナ禍で疲弊した世界にも勇気と活力を与えられると考えている」と締めくくった。
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