日本においてコロナ禍で起こった特徴的なものをみると、現状では、強力なロックダウンを実施することなく感染者数、死者数を他国に比べて抑え込んでおり、グリーンゾーン(感染をある程度抑え込んだ国)の国といえる。また、危機管理能力が高い国であることも他国から評価されている。
レポートでは、これらの状況下で今後社会に期待されるイノベーション像を分析し、まとめている。その共通キーワードは「デジタルシフト」であり、イノベーション創出に必要な共通技術は「オンラインコミュニケーション」「リアリティー」「信頼性・セキュリティ」などがある。これらについて、日本の強みを生かしながら、知力、技術力を結集し新しいイノベーションを共創していくことが期待される。
具体的にそれら技術を、①バーチャルでの空間サービス、②リアル空間でのサービス、③データ駆動型産業、④モノの製造・生産(モノありき)の4つの産業別(区分)に分けて紹介した。各産業は、いずれもコロナ禍を受け、少なからずデジタル化が浸透、進展するものとみられるが、区分ごとに期待されるイノベーション像は異なっている。
①のバーチャルでの空間サービスでは、これまで対面中心だったビジネスがオンラインに代わるものが増えるとみている。名刺やハンコなど物理的なものが、オンライン化して、ネットワークのコミュニケーションだけでも商談、契約が進むものと期待されている。また、さまざまなものがバーチャル空間で使われることが見込まれており、展示会などもサイバー空間上で行われる、とする。授業や習い事、スポーツに関しても多様化し、それに伴うオンラインコミュニケーション技術、5G・通信技術、VR技術、触感再現技術などさまざまなデジタル技術の進展が必要となる。医療サービスに関するイノベーションでは、センシング技術の発展により人との接触せずに、人が生活している中で健康状態をモニターして、各種サービスが受けられるという状態につながることが期待される。
また、②のリアル空間でのサービスでは、医療・介護など人の身体に直接対応しなければならない産業において、ロボットを介すことでウイルスの感染の危険性を低減と省人化が可能となる。
③のデータ駆動型産業では、小売り・流通など人が物理的に接して受けるサービスにおいても、人が直接的に届けるのではなくロボットやドローン、無人トラックなど自動運転を利用した配送など新たな輸送システムの構築につながると考えられる。また、インフラ・モビリティでの維持管理にサイバー空間を用いる動きもある。エッセンシャルワーカーが必要となる電気・水道・ガスなどライフラインの管理の省人化や交通インフラの管理による運営の効率化が見込まれる。
製造・生産現場においてもロボットやテレイグディスタンス(遠隔臨場感)などを導入することで省人化が可能となる。伊藤氏は「現場に人が入ることをなるべく避けたい食品加工業でもテレイグディスタンス、自律ロボットの活用が進むとみられる」と指摘する。そして、設計・製造におけるイノベーション像としては、量産性を考慮した設計・製造手法を提案・実現できるコア技術が重要となる。「その技術をモジュール化し、設計・製造・管理プラットフォームで一元管理することで、さまざまな部材の生産に対応し、シェア向上の実現につながることが期待されるイノベーションとなる」(伊藤氏)という。
④モノの製造・生産(モノありき)では、コロナ禍で問題が起きたサプライチェーンについてもイノベーションが求められる。今回のCOVID-19で予想もしない影響を与えたパンデミックを含めて、従来も課題となっている台風や地震などの災害に柔軟に対応できるようになる必要がある。
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