背景として考えられるのは、自動車業界の求人が減少していること、また電気自動車、自動運転など自動車自体の変化に伴い、エンジニアの配置バランスが変化していることもあるだろう。ここ数年、自動運転などに転用可能な技術を持っている家電やOA機器出身のエンジニアが、自動車業界に採用される傾向もある。
一方、自動車業界から他の製造業に転職するといっても、自動車業界での自分の経験やスキルがどう生かせるのか、気付いていない人も少なくない。そのため同社では、技術的に親和性のある他業界の製品や企業にナビゲートすることにも力を入れ始めている。例えば、自動車部品の設計・開発をしていた人が、他業界の電子部品、機械部品の設計者として転職している事例もあるし、少し長い目で見ていったん技術者派遣の会社に就職し、これまでとは異なる経験を積むことでキャリアの幅を広げるという選択をする人もいるそうだ。また製造業向けのIT化ソリューションやコンサルティングなどを提供している企業でも、自動車も含めた製造業出身者が採用されている。
「景気が低迷しているといっても、技術者の不足感が払しょくされたわけではなく、採用に対する底堅いニーズはある」と関寺氏が言うように、いったんストップしていた採用を、再開する製造業企業も出始めている。しかしかつてのような盛況感を取り戻すにはまだ時間が必要で、現在募集しているポジションは、本当に今必要な領域に限られている。企業側としては、限られた投資の中で最適な人材を配置しようとしているわけで、技術スキルや経験だけでなく、仕事に対する考え方、社風に合う人なのかなど、書類選考の段階から厳しい目を向けているのだ。
この状況下で転職を成功させるには、どうすればいいのか。
「どの企業に対しても同じレジメを書いていたのでは通用しない。まずその企業が何を求めているのか、どんな人材を欲しているのかをしっかり理解すること。その上でレジメをリライトしたり、エージェントを通じて強みを伝えてもらったりするなど、より一層入念な準備が必要になっている」と関寺氏は言う。
この半年で、私たちを取り巻く環境は一変した。今後の自分の業務に不安を覚えた人もいるだろうし、家族と過ごす時間が増える中で、働き方についてあらためて考えた人もいるだろう。コロナ禍は、自分のスキルの棚おろしをしたり、視野を広くキャリアを考えたりするきっかけにもなっているのではないだろうか。間違いなく変化していく自動車業界の中で、どう自分を生かすのか、あるいは別の業界で活躍するのか、考えてみるのもいいかもしれない。
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