コロナ禍で転職市場が落ち込むなか、モデルベース開発人材へのニーズが高まり続けている。自動車でモデルベース開発が必要な理由や向いている人材について、転職コンサルタントに話を聞いた。
昨今、自動車業界を中心にモデルベース開発のニーズが急速に高まっている。それに伴い、モデルベース開発ができるエンジニアの求人も増加している。なぜ自動車でモデルベース開発が必要なのか、「モデルベース開発ができる」とはどういう人なのか。自動車業界専門転職サイト「オートモーティブ・ジョブズ」を展開するクイック 人材紹介事業本部 自動車チーム マネージャーの大熊文人氏に聞いた。
自動車業界がモデルベース開発を取り入れ始めたのは、ざっくり10数年ほど前からではないだろうか。それが今、急速な盛り上がりを見せている背景にあるのは「CASE」の台頭だ。コネクテッド(C)自動運転(A)シェアリング(S)電動化(E)により、自動車の構造は変化し、複雑化している。「CASEによってより効率的で高性能な開発が必要になり、従来の開発手法では対応しきれないことから、モデルベース開発のニーズが高まっている」と大熊氏は説明する。
ではなぜ、モデルベース開発の方がいいのか。
モデルベース開発は、革新的な開発手法と言われ、開発期間短縮、品質向上といった製造業の普遍的な課題に大きく寄与する。キモとなるのは、その名のとおり「モデル」だ。フローチャートもモデルの一種かもしれないが、ここで言うモデルは紙に書かれた静的なものではない。「動く仕様書」、「実行可能な仕様書」などと言われるように、モデルをツール上で動かすことができる点がまったく異なる。
モデルが動くことによる効果は大きい。従来の開発スタイルでは、ハードウェアのプロトタイプを待たなければならなかった妥当性の検証や、強度や熱などの解析、欠陥や故障の検証を、設計段階でシミュレーションすることができる。後工程で見つかると手戻りが大きくなりがちな問題を、早い段階でつぶすことができるうえ、コードも自動生成されるので、コードと仕様書が食い違うといったこともない。品質を高めながら、開発期間を短縮でき、トレーサビリティも確保されるのだ。
しかし採用という観点では、なかなか難しい。
開発工程はよく「V字モデル」で表現される。モデルベース開発によりV字モデル全体の工数は削減されるものの、V字の左側で検証と修正を繰り返すため、左側の工数は増える。設計エンジニアには、シミュレーションなど、設計以外の知見も求められるようになる。左側のエンジニアの仕事量が増え、高度化するのだ。
「モデルベース開発のニーズが高まり、V字の左側を担う人材を増やさなければならない。しかし従来の設計エンジニアより幅広い知識や知見が必要で、そういう方はあまり多くない」(大熊氏)。これが、採用が難しい理由だ。
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