目指すべき姿は、設計が3Dデジタルツインを準備し、それをデジタル擦り合わせによって、生産技術とともに作り上げ、さらに現場に流していくということであろう。
ツバメックスの事例が教えてくれたことは、現場に対してしっかりとIT教育を行うことで、デジタルで現場力が引き出せるようになり、結果的に設計者はより創造的な仕事に専念できるということだ。
また、後工程まで3Dデジタルツインを流通させ、それを現場の安価なPCやタブレット端末で参照するとなると、3Dモデルは可能な限り軽量化し、手軽に軽快に表示できることが望ましい。幸い、日本には「XVL」のような軽量3Dモデルが存在する。軽量3Dモデルで組立工程を検証して、作業手順書を作成し、製造で参照するというプロセスを実現することができる。
以前、トヨタ自動車の試作部の方からこんなことを聞いたことがある。試作部というのは実際に動くクルマを作る必要があり、そのために必要な全ての部品を準備していた。それが3D設計になって、実機の代わりにデジタルで検証しようという際、全ての部品をデジタルモデルで集めるということを始めたという。3Dモデルを整備することが、その後の検証と活用まで考えると十分投資に値するのである。実際、生産技術部門や試作部門がデジタルモデルで検証することで、設計の3Dモデルの品質を高めている(※参考2)。設計と現場目線の両輪でデジタル擦り合わせをすることで、設計の3Dデジタルツインを作り上げているのだ。
※参考2:「ものづくり技術・匠の技能」発揮による XVL データの活用(出典:ラティス・テクノロジー)
今回はドイツと対比することで、日本の製造業の強みを引き出す方法を述べた。ドイツ型は、設計段階でシミュレーションを徹底的に行い、部品表も含め完成された3Dデジタルツインを構築する。後工程はその設計に従い、徹底的に作業を自動化する。この方式では、現場の自発的な改善や急な仕様変更対応を後工程で行うことは難しい。ここに日本の勝機があるだろう。
日本型は、実機による試作で課題を量産準備段階で洗い出してきたが、ここをデジタル擦り合わせに変え、さらに優秀で勤勉な日本の現場の力をデジタルで引き出すことができれば、日本の製造業は次の成長のステージに進むことができるかもしれない。COVID-19との闘いから社会が復活したとき、日本の製造業が再び輝けるように、その強みを最大限に生かすDXの手法を次回以降も考えていく。 (次回に続く)
鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」「3次元ものづくり革新」「3Dデジタル現場力」「3Dデジタルドキュメント革新」などがある。
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