製造業のDXとは、設計情報の流れを作ることである。モノづくりの起点となる設計情報を迅速に共有することで、プロセスが並列化し、作業を前倒しに進めることができる。
このDX視点で、日本の製造業の設計から製造に至る流れを見てみると、現地現物偏重と図面文化によるアナログ情報の流通が中心で、いたるところに情報の分断があり、DXを妨げていることが分かる。この様子は、10万円の特別定額給付金のオンライン申請が多くの自治体で手間取った構図とよく似ているように思える。
「2020年版ものづくり白書」(経済産業省)によれば、3D CADデータだけで設計している会社は17%であった。これらの会社は、後工程に3Dでデータを流している可能性が高い。残り83%の多くは2D CADも使っており、図面で後工程に情報を流しているものと推察される。だとすれば、ほとんどの会社のモノづくりプロセスで図2のような情報の分断が起こっていることになる。では、日本の強みを生かしながら、DXを進めるにはどうしたらよいのだろうか。
日本には、製造と設計が現地現物をベースに対話しながら、製品品質を作り上げてきたという強みがある。これをデジタルで生かすには、まず設計が3Dモデルを作り、それを早期に現場に渡し、現場との擦り合わせをデジタルに行うことで、“設計モデルの品質を上げていく”という手法が有効だろう。設計だけで3Dモデルの完成度を上げるのではなく、「デジタル擦り合わせ」で現場の知見をフィードバックし、設計と製造がデジタルにコラボレーションすることで、完成度を高めていくのだ。最終的には、試作機(試作品)による検討の段階で、他国の追従を許さない、日本ならではの高い製造品質を達成することができるだろう。
こうして完成された3Dモデルは、3Dデジタルツインとなって、図面の代わりに情報配信できるようになる。実際、3Dモデル内に製造情報を付加し、製造現場で現物と対比させながら3Dモデルを見ることで生産性を著しく向上させた会社がある。サンスターグループの金型会社ツバメックスだ。その製造現場の様子を動画1に示す。
図面よりもはるかに多い情報量を持つ3Dデジタルツインを参照することで、製造現場は作業の段取りを迅速に進めることができたという。面白いのは、これによって最大の恩恵を受けたのが“設計者であった”という事実である。現場の作業者は、3Dモデルで計測するなど、図面上にはない情報を知ることができ、設計への問い合わせの数が激減したのだ。
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