――水野さんのジョイン後、AI開発が本格的に始動したのですね。苦労した点はありましたか。
三野氏 一番厄介だったのは、運転支援に求められるレベルでAI処理が可能なサイズのGPUを、どのようにデバイスに搭載するかというところでした。Pyrenee Driveでは自動運転に近いレベルで道路上の物体認識を行う必要があります。しかし、一般的に自動運転の研究で使われるようなコンピュータは、運転席前に取り付けると前が見えなくなるほど巨大です。
もう1つ困ったのは電力量で、そのような巨大なコンピュータは稼働させるのに1000〜2000Wもの電力が必要だと分かりました。私たちのデバイスは車のシガーソケットから給電するので、数十W程度の電力で稼働させる必要があります。
――その問題をどうやって乗り越えたのですか。
三野氏 申請予定の特許や協力会社のノウハウが絡むので、詳しくは説明できないのですが、精度を落とさずに、より少ない計算量で効率よくデータ処理が行える技術を開発して、それを約2年をかけてAI処理ソフトウェアの形に落とし込みました。これによって、比較的小型のGPUシステムでも十分なAI処理能力を発揮するようになりました。
精度を下げないことが大前提なので、GPUは米国半導体メーカーNVIDIA製のものを使っています。カメラも30種類以上試した結果、ソニー製のCMOSイメージセンサーを選定しました。暗所にも強く、夜道でも人間の目より周囲環境を適切に把握できます。
――2020年7月には元ソニー会長の出井伸之氏が顧問に就任したという発表がありました。いよいよ本格的にビジネス展開を始めるのですね。
三野氏 出井さんが設立したVC(ベンチャーキャピタル)のクオンタムリープのピッチ会で初めて出会い、製品の意義と将来性を見込んでいただいたのがきっかけで、今回、ありがたいことに顧問に就任いただきました。製品の量産化については、現在シャープの協力を得ながら準備を進めていまして、2021年のなるべく早い時期に発売したいと考えています。
当面は月額制でのサービス開始を予定しています。発売後に蓄積される交通や運転に関するビッグデータを、匿名化処理した上で自動運転の研究施設などに提供する事業も計画しています。データ事業で収益を得たら、その分月額料金を抑えることでユーザーに還元したいと考えています。
当社が目指すのは、「ドライバーの相棒」を開発することです。Pyrenee Driveに「眠たくなってきた」と話しかけると、「目が覚める音楽をかける? それとも目が覚めるような怖い話をする?」と返答が来る。そこで音楽を選んだら、眠気を吹き飛ばすようなヘビーメタルが流れ出す。
事故防止に貢献したり、カーナビが使えたりするという便利さはもちろんですが、「相棒」として「ドライバーを楽しませること」にもこだわっていきたいと思っています。
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