モノづくり施設「DMM.make AKIBA」を活用したモノづくりスタートアップの開発秘話をお送りする本連載。第3回はAIを使った運転支援デバイスを開発しているPyreneeを紹介する。「見た目はかっこいい」HUD型のデバイス設計や、実用に耐え得る運転支援用のAI開発に取り組む同社だったが、思わぬ苦労が待ち受ける。
オープン6年目を迎えた東京・秋葉原の会員制モノづくり施設「DMM.make AKIBA」で、社会課題の解決に奔走しているスタートアップを追いかける連載「モノづくりスタートアップ開発物語」。第3回はドライバーを支援するAI(人工知能)アシスタントデバイスを開発しているPyrenee(ピレニー)のCEO三野龍太氏に、開発経緯やビジネスへの思いなどを聞いた。
自動車の誤った操作で多くの人命が失われる交通事故が相次いでいる。各自動車メーカーが自動ブレーキなどの安全装置を備えた車両を発売している影響で交通事故死者数は減少する傾向だが、それでも警察庁の出した統計によると、2019年は3920人が犠牲となっているという*1)。
*1)警察庁が発表した2019年の30日以内死亡者数。政府統計ポータルサイト「e-Stat」を参照。
こうした交通事故の大きな原因となっているのがドライバー自身の不注意や過失によるヒューマンエラーだ。科学警察研究所の統計によれば、ヒューマンエラーによる事故のうち最も多いのが見落とし(73.8%)で、続いて判断ミス(18%)、操作ミス(8%)と続く。
*2)警察庁 科学警察研究所のレポートを参照(*リンク先PDF)。
各国の自動車メーカーがしのぎを削る自動運転システムの開発は、こうした不幸な事故を低減する可能性を持つ。しかし、現時点での開発や法の整備などのスピードを鑑みると「確かなシステムが完成するまでには数十年かかるだろう」ともいわれており、実現までの道のりは遠い。
Pyreneeが開発しているPyrenee Drive(ピレニードライブ)」は、こうした自動運転技術が実用化されるまでの、事故防止の担い手となり得る可能性がある。
Pyrenee Driveは運転席から見える歩行者や他の自動車、自転車などの存在を確認して、その後の動きを予想し、交通事故の危険性があれば音声でドライバーに伝えるというデバイスだ。電源はシガーソケットから取れるので、乗用車はもちろんのこと、トラックなどの商用車にも簡単に後付けできるのが特徴だ。自動運転システムが事故そのものを防ぐのに対し、Pyrenee Driveは事故の原因となるヒューマンエラーを察知することで事故を未然に防ぐ。
Pyrenee Driveには、ドライバーが運転時に道路上の物体をしっかりと認識できる範囲とされる視野角約35度を大幅に上回る、視野角100度をカバーするカメラが取り付けられている。そして、カメラから取得した映像内の物体をAI(人工知能)が認識し、危険を察知するとドライバーに「右から歩行者が来るよ」などと音声でドライバーに知らせる仕組みだ。
AIによる解析を強力に行うため、Pyrenee DriveにはGPUを搭載している。LTE対応のSIMカードも組み込まれているので、事故防止機能のアップデートや、車両間などでの通信も可能だ。デバイス本体の操作は前面に取り付けられた液晶のタッチパネルで行う。通信機能だけでなく、ドライブレコーダー機能などを搭載しており、将来のアップデートでカーナビや音楽再生機能なども追加する予定だという。
デモ機サイズは幅約22×奥行約15cmで、発売までにさらに小型化を進める予定だという。
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