この「ロボット統合コントローラー」により、実現できる価値は大きく分けて2つある。1つは、当初から目指していた、今までは人しかできなかった高度で器用な、“匠の技”を自動化できるという点である。微妙な角度や力の入れ具合を探りながら行う挿入や組み付けなど、さまざまなセンサー情報などを生かしてタイミングを合わせて作業する繊細で巧みな加工・組み立て工程の自動化で活用できる。
また、従来ロボットとマシン制御を組み合わせて自動化を行っていた工程でも、「ロボット統合コントローラー」を使うことでさらなる効率化を実現できるという。オムロン内の自社設備で実際に「ロボット統合コントローラー」を活用して最適制御を行った結果では、装置のパフォーマンスを23%向上させることができたという。
もう1つの価値は、1つのソフトウェアで制御機器やロボットが統合管理できるようになることで、バーチャルとリアルを融合しリモートで設備立ち上げや保全などが行えるようになるという点だ。
生産設備の構築プロセスでは、「事前検証」「設備設計・製作」「運用」「品種追加」などの工程があるが、個別の制御機構があることで精密にタイミングを合わせるのが難しく、最終的には現場ですり合わせながら調整するという期間が非常に長くなる。現在のような移動が制限される環境では、現地でサポートするのが難しく、ライン構築の大きな障壁になるケースが生まれている。また、一度設定しても使用しているうちに徐々にずれが生じるため保全が必要になるが、この場合も現地で行う必要があった。
しかし、「ロボット統合コントローラー」により1つの制御プログラムに統合するとともに、これらを管理するソフトウェアも1つに統合することで、バーチャル上で精度高く実機を再現しプログラムをシミュレーションできるようになる。CADの設計データなども、CADソフトからインポートすることが可能で、工程のパフォーマンスをデジタルツインとして再現することなども可能となる。
保全についても、1つのソフトウェアであらゆる機器のデータが集約できることで現場にいなくても設備の運用やメンテナンスが可能になる。記者会見では実際に、京都での会見会場と愛知県刈谷の中継会場を結び、リアルタイムで京都から刈谷の装置の制御情報を確認し設定を変更するようなデモも行った。
山西氏は「精密な同期が必要になる製造ラインでは基本的には現地現物で対応するというのが基本となっていた。しかし、移動が制限されるような現在の状況ではこれらがかなわない状況が生まれてくる。マシン制御とロボット制御を一元化できることで、制御情報をまとめて把握できるようになり、ライン全体のパフォーマンスが把握できるようになる。これらを基に遠隔でも対応できることが増える。バーチャルとリアルを融合する新たなモノづくりの世界に挑戦していく」と語っている。
オムロン内で安全用のドアスイッチリレーの検証装置を構築したところ、これらの統合ソフトウェアを活用することで、事前検証は90%、設備設計や製作は50%、品種切り替えは50%の作業時間削減を実現できたとしている。
「ロボット統合コントローラー」では当面は既設の置き換えではなく新たな設備構築を想定しており、今まで人手で行っていた作業を自動化するニーズに応えていく方針である。ターゲット業界としては自動車部品やスマートフォン端末などのデジタル機器の製造ライン、三品業界など向けを想定しているという。「これらの業界では後工程で人手が多く使われているケースが多く、自動化ニーズが高い」(山西氏)としている。2020年度は200システムの導入を目指すとしている。
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