では実際に、ゼネバ機構がどのように機械式時計の中で使われているのでしょうか。残念ながら、この機構が採用されていたのは本当に古典的な時計(アンティーク時計)のようで、もちろん筆者は持っていませんし、仮に持っていたとしても素人が簡単に分解できるものではありません。
そこで、今回は時計修理店のWebサイトの画像(例:マサズ パスタイムのWebサイト画像より)などを参考に、機械式時計のゼンマイ巻き止めに使われているゼネバ機構を図に表してみました(図3)。
いかがでしょうか。冒頭に紹介したものとは少し形が違いますね。では、簡単に説明していきます。
図3に示した通り、従動節の円弧上に並ぶ花びらのような突起の形状が1つだけ異なっており(1つだけえぐれていない)、通過できないようになっていることが分かります。原動節がゼンマイを巻くための取っ手(リューズ)と連動して動くようになっているため、リューズを回すと原動節が回転し、従動節も1コマずつ回転していきます。そして、この通過不可能な部分に差し掛かると、原動節の一部が干渉し、それ以上リューズが回せなくなるという仕組みです。
つまり、機械式時計の中に入っている巻き止めのゼネバ機構では、従動節の溝の数を変えることで巻き数を調整し、ゼンマイが切れないように、有効な範囲でゼンマイの力が使えるようにしているのです。
ゼネバ機構は、時計以外にもオルゴールのゼンマイの巻き止めにも使われていたようです。この機構を付けたことで時計はより正確に時を刻めるようになり、オルゴールはより正しいリズムでメロディーを奏でることができるようになりました。
その後、ゼネバ機構はフィルム映写機のフィルムの送り機構などにも採用されています。フィルム映写機は、多くの画像を素早くコマ送りで流すことにより映像を作り出します。この止めて流してという動きを作り出すのに、間欠動作を再現できるゼネバ機構が最適だったのでしょう。現在ではデジタルが主流になり、フィルムで映画を見られるところも少ないですが、レトロな雰囲気もたまにはよいですよね。
さて今回は、間欠動作機構の1つであるゼネバ機構と、そのルーツについて解説しました。現在でも自動機の送り機構などに採用されることのあるゼネバ機構ですが、もともとは機械式時計のゼンマイの巻き止めとして使われていたなんて面白いですよね。機構のルーツを探ることで、新しいアイデアやそのヒントが得られるかもしれません。筆者も引き続き、いろいろな機構のルーツを調べてみたいと思います。それでは、また次回お会いしましょう! (次回に続く)
久保田昌希
1981年長野県生まれ。大学卒業後、大手住宅メーカーの営業職に就くも退職。その後に就いた派遣コーディネーターの仕事で製造ラインの人員管理などを行い製造業に関わりを持つ。その中でもっと直接モノづくりに関わってみたい、自分で製品を生み出してみたいという思いが強くなり、リーマンショックを機に退職。職業訓練で3D CADや製図、旋盤やマシニングセンターの使い方を学んだ後、現在のプロノハーツに入社。比較的早い段階から3Dプリンタを自由に使える環境に身を置けたため、設計をしてはすぐに社内試作を繰り返し、お客さまからもたくさんのご指導を頂きながら、現在では医療機器からVRゴーグルまでさまざまな製品の開発、試作品の製作を受託。その経験を生かし子供たちに向けた3D CADや3Dプリンタの使い方講座なども行っている。
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