サプライチェーンのデジタル化を阻む課題は何か、「負の相互連鎖」を断ち切れ製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所(2)(2/3 ページ)

» 2020年07月01日 10時00分 公開

問題事象の負の相互連鎖

 前述のような状況は、「プロセス・組織・人」「評価・分析」「ITシステム」「データ」の4つの領域にわたる問題があり、それぞれが関連した「負の相互連鎖」のスパイラルに陥っている(図1)。

図1 図1 問題事象の負の相互連鎖(クリックで拡大)

プロセス・組織・人:サイロ化されたプロセスと領域をまたいで状況把握する人材の不足

 これまでの日本製造業におけるSCMの取り組みの多くは、各部門の現場効率を上げる視点が中心であり、自組織の業務効率化、実行領域を優先して行われていた。安定した品質の維持や効率化によるコスト削減効果はあるものの、結果的に個別最適となり全体最適になっているとはいえない。築き上げた各業務プロセスをより効率的に実行するためにITシステムを導入した結果、細かくカスタマイズされたIT資産が多く生まれ複雑化している。

 SCMの対象業務領域は広く、SCM全体の視点で改革と改善を推進する場合、業務およびITの両面で全体を見通せる人材が必要である。しかし、業務領域をつなぐ人材、さらには業務とITをつなぐ人材が不足しており、問題事象の把握、改善推進が十分にできない。

評価・分析:E2Eで問題所在が明らかにならず、抜本的な対策が打たれない

 マネジメント層が監視するKPI(Key Performance Indicator、重要業績指標)は結果指標であることが多い。よって、現場に問題が発生していたとしても、現場力でしのいでいれば結果としてKPIに問題はなく、問題が顕在化しにくい。未来の情報である計画情報についてはデータが準備されておらず、リスクや予兆を管理するKPIとしての管理すらできていないことがほとんどである。また、サイロ化した個別業務は、マネジメント、オペレーション、ITといった業務領域ごとの壁を生み、問題事象の原因を特定することを困難にしている。問題を問題として気が付けない、認識できない構造になってしまっている。

 たとえ原因を特定したとしても、変えるためには限定的な業務領域ではなく、広範囲な業務およびITシステムの変更を余儀なくされ、投資が増加する傾向にある。SCM領域においては投資対効果を正しく評価することが難しく、マネジメント層の理解を得られず、根本的な対策が打たれないことも多い。

ITシステム:複雑なレガシーシステムが足かせとなり、変更に時間を要する

 長年の現場改善で作り込んだITシステムは複雑化し、年数がたって中身を正確に把握できている人がいないという事態が発生している。特にSCMに関連する実行系のITシステムは、その時々の状況により、改善を積み重ねて変更を繰り返している場合が多い。昔使われていた機能も、現在は使われていないなど、まずその棚卸から必要になる。現場担当者は、1つの機能については詳しいが、その相互の関連性までは理解していないため、影響を調査するだけでも多大な工数が必要となる。

 一方で、状況変化の激しい計画業務は標準化しにくく、柔軟に業務を回すためにExcelが多くまん延している。Excelは柔軟であるが、属人化しやすく、業務間で共有して使うことには向いていない。相互の連携では多くを人の力、電子メールのバケツリレーに依存しており、データをつなぐ障壁になっている。

データ:データの点在、再利用困難、不十分な定義

 サイロ化した個別業務、Excelバケツリレーは、部署や個人でデータを閉ざしてしまう。E2Eでサプライチェーン全体のデータを収集しようとした場合、電話やメールといった手段を多用し、収集だけで工数が多くかかる。部署や個人で最適化されたデータは、粒度や鮮度が異なり、再利用することを困難にしている。

 また、計画立案や分析に必要な情報定義が不十分といったことも多い。グローバルに展開している企業であれば、グローバルに同じ定義の情報を使うことが必要である。しかしながら、現実には業務プロセスやルール、ITシステムの仕様などにより、言葉としては同じでも意味が異なっているデータが存在してしまう。

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