サプライチェーンにおける業務改革を推進する中で、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第2回は、サプライチェーンのデジタル化を阻む日本製造業の課題について、SCMの実態、発生している問題、その背景をひもときながら紹介する。
前回記事(連載第1回)は、サプライチェーンのデジタル化への期待を、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の切り口から紹介した。現在、サプライチェーンのデジタル化は非常に注目されている。しかしながら、日本の製造業においては、思うように取り組みが進んでいないのが実態である。
⇒連載「製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所」バックナンバー
第2回の今回は、サプライチェーンのデジタル化を阻む日本製造業の課題について、SCMの実態、発生している問題、その背景をひもときながら紹介する。
サプライチェーンは拠点と拠点をモノでつなぐプロセスの連鎖であり、SCMは需要と供給のギャップのコントロールを目的とした、企業、組織、人をつなぐ情報と意思決定の連鎖のプロセスである。SCMには、販売、物流、生産、調達といった広い業務領域で整合のとれたコントロールが求められる。よって、全体最適を目指すにはエンドツーエンド(以下、E2E)でのPDCAが重要となる。ところが、日本製造業のSCMプロセスは旧態依然であり、個別最適を繰り返しているのが実態である。
以下に、グローバルで販売会社(以下、販社)や工場を展開する、ある企業の実際の状況を紹介する。
販社は、計画立案に必要な実績や外部状況などのデータを、メールや電話で収集しExcelにまとめ、販売計画、在庫計画、仕入計画をExcelで立案している。
計画立案に必要なデータをメールや電話で収集しているため、データを収集しExcelにまとめるだけで多大な工数がかかり、本来重要な計画内容の検討に時間を割けていない。また、計画立案に本当に必要なデータが入手できず、やっとの思いで入手したデータも鮮度や粒度が異なり、さまざまデータが不十分な中で意思決定が求められている。
一方、工場は販社からの仕入要求を受け取るものの、要求の背景にある実績や販売計画、在庫計画の状況が分からない。よって、販社の仕入要求と生産制約のギャップを工場の観点のみで最適化するが、その結果が販社の販売計画や在庫計画に対しどのような影響が及ぶか分かっていない。
工場は生産計画に沿って製造するものの、製造遅延が発生した時など、何をどこに優先すべきかの判断材料に乏しく、営業やSCM担当者に電話やメールで問い合わせる。かなり混乱した状況にもかかわらず、問題が顕在化しないように現場力でしのごうとし、事後対応に追われ続けている。
進捗の把握や問題分析のためにデータを収集するが、入手できるのは自拠点のみであり、結果的に局所的な分析になっている。それでは不十分であると気が付き、E2Eでの状況把握や分析を行おうとするが、データを収集するだけで精いっぱいであり、分析に時間を割けていない。入手したデータも、いろいろな人が数字を調整し、何が正しいか分からず、データの整合性確認に時間を要している。結果として、発生した問題に対するサプライチェーン全体での要因が特定できず、遅延は全て工場責任となっている。
何かを改善しなければならないことは理解しているが、サプライチェーン全体の仕組みの中でどこに問題要因があり、手を付ければよいか分からない。少しずつでも変えようと取り組みを始めるが、染みついた既存業務やシステムが改善の障害になってしまう(すぐに変えられない)。結果として、手が打てるのは部門内の改善にとどまり、全社的な改善につながらず、表面的な対応で過ごし、また同様の問題が発生している。
以上、ある企業の実際の状況を紹介したが、全く同じとはいかないまでも、一部でも当てはまっている企業は多いのではないだろうか。
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