「CPSテクノロジー企業」として再成長を目指す東芝。この再成長を支える技術基盤確立に力を注ぐのが、東芝 コーポレート デジタイゼーションCTO デジタルイノベーションテクノロジーセンター長の山本宏氏である。同氏の東芝での取り組みと、CPS時代に勝ち残るポイントについて聞いた。
経営危機を乗り越え、「CPS(サイバーフィジカルシステム)テクノロジー企業」として新たな成長を描く東芝。その成長を生み出す基盤として2018年には、東芝独自のIoT(モノのインターネット)参照アーキテクチャとなる「Toshiba IoT Reference Architecture」を発表した。2020年にはこれらをベースにサービスを連続で生み出す手段として「Toshiba IoT Service Factory」を示すなど、次々に技術基盤を進展させてきた。
これらの新たな方向性を示し、技術基盤の確立に取り組んできたのが、東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO デジタルイノベーションテクノロジーセンター長の山本宏氏である。東芝の新たな成長になぜこれらの技術基盤が必要になるのか。外資系IT企業のグローバルCTOを務めた経歴などを持つ山本氏の、東芝での取り組みと、CPS時代に勝ち残るポイントについて聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist 外資系ITベンダーから東芝に入社され「東芝のデジタル化」をけん引する役割に就かれています。どういうきっかけがあったのでしょうか。
山本氏 2018年7月に東芝に入社したが、決め手となった要因の1つが、東芝が日本を代表するモノづくり企業だった点である。米国IBMで「グローバル・エレクトロニクス・インダストリーCTO」などを務め、グローバルから日本を見るようになった際に、あらためて日本の文化や人の素晴らしさを感じ、日本のために貢献したいという思いを持つようになった。
一方で、日本は課題先進国ともいわれるように、明るい未来が見えないという状況がある。どういうことをすれば、かつてのような日本の輝きを取り戻せるのか考えるようになる中で声を掛けていただき、東芝をもう一度輝かせることで日本に恩返しをしたいと考えた。
MONOist グローバルでさまざまな地域を見てきた中で、日本の企業や経済が停滞した理由についてはどう考えますか。
山本氏 大きな要因として、意思決定の面での問題があると感じている。日本人の特性による日本企業の意思決定の複雑さや遅さ、根回し文化などが足を引っ張っている。例えば、日本企業では、モノを決めるプロセスが稟議書などで進むが、これは日本特有の意思決定プロセスで、今の時代にはスピード感が全く合っていない。こうした形骸化した不要なプロセスが数多く残っている。これらのネガティブな面については、改めていかなければならないと感じている。
文化的な背景のあるこうした日本人の特性は当然、プラスの面もあるが、今はマイナスの面が強調されている。例えば、プラスの面でいえば、勤勉で限られたフィールドの中で突き詰めて掘り下げる能力がある。こうした特性は職人や研究者などの領域では生きる。一方でマイナスの面としては、決断のプロセスが可視化されていないという面がある。明確化しないというか、モノを隠すようなところがあり、こうした距離感が、共同プロジェクトの成立なども阻む要因になっている。
また、欧米などでは、ルールがない領域であれば何でもやってしまうメンタリティがあるが、日本はルールに書いてあることだけをやるという企業が大半で、こうした意識も、イノベーションや新規事業創出を阻む土壌だと感じている。
東芝では新たな成長の軸としてCPSを掲げているが、こうしたCPSを成立させるためには、1社で全てをカバーするのは不可能である。マルチベンダーでパートナーシップを結ぶことが必要で、効果を判定するための実証なども共同で展開することが必要になる。こうした中で意思決定が遅く、リスクを取って判断することができないと不利になる。実際に「日本企業と組むのは面倒くさい」という声も聞く。こうしたマイナス面も変えていくことが必要になると感じている。
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