新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に伴い、ソフトウェアクレイドルは、同社のCFD(数値流体力学)ソフトウェア「scFLOW」を用いて、くしゃみによる微粒子の飛距離が、防護なし、肘の内側による防護、マスクの着用でどのように変化するのかを解析し、その結果をレポートにまとめた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行に伴い、MSC Softwareグループ傘下のソフトウェアクレイドルは、同社のCFD(数値流体力学)ソフトウェア「scFLOW」を用いて、くしゃみによる微粒子の飛距離が、防護なし、肘の内側による防護、マスクの着用でどのように変化するのかを解析し、その結果をレポートにまとめた。なお、同解析レポートは、同社 開発部の入江智洋氏によるものだ。
同解析における計算条件は次の通りだ。まず、閉じられた空間(部屋)の中に、2人の人物がおり、2m離れた位置で向かい合わせに立っている。このとき、ある一方の人物がくしゃみをした際に、どのようにして口から噴出された唾液などの液滴が飛散するのかを検証する。くしゃみは口から流速10m/sの流れが計算開始から0.1秒だけ持続する時間依存の流入条件として設定。また、くしゃみによって運ばれる液滴を模擬するため、水の密度を持つ直径1μmの粒子を、同じく口から10万個を10回に分けて発生させることとした。併せて、粒子に対する空気抵抗、重力の影響も考慮した。
計算のタイムステップは1msとし、約5秒間(5000ステップ)の計算を実施。噴流状の流れの特性を捉えるために、乱流の取り扱いはLES(Large Eddy Simulation)を使用した。
本来、正確に現実のくしゃみを模擬するには、液滴の粒子径分析や噴出角度などをより詳細にモデル化する必要があるが、今回は液滴の飛散を防ぐ方法による影響に着目した検証であるため、このような条件下での解析にとどめているという。計算に用いた計算格子数は約130万〜250万要素で、計算時間は144コアを用いた並列計算で約1〜2時間だとする。
このレポートでは、前述の計算条件に基づき、「防護なしの場合」「肘の内側で口元をふさいだ場合」「マスクをした場合」の3つの状況において、くしゃみによる液滴の飛散をシミュレーションしている。それぞれの計算結果は次の通りだ。
まず、防護なしの場合だ。全く口をふさがないままでくしゃみをした場合、噴出された液滴は約2.5秒で対面する人物に到達。液滴を輸送する渦の動きを可視化するため、速度勾配テンソルの第2不変量の等値面を重ねて描画したところ、口からの噴流により形成された渦輪が液滴を巻き込みながら、遠方へ運んでいく様子が見て取れたという。
続いては、マスクがない状態で咳やくしゃみなどをする際に推奨されている、肘の内側で口元をふさいだ場合の検証だ。この場合、実際には衣類の袖による摩擦や吸収効果などが考えられるが、今回は衣類の影響は考慮せず、腕の表面は滑らかな壁として計算したという。
顔と腕の間には上下に隙間があり、口から噴出した流れはこの隙間を通って前方へ向かう。シミュレーションでは、先程の防護なしと比較すると、前方へ向かう流れは減衰して周囲に拡散され、液滴は対面する人物には到達しないことが分かった。このときの液滴の到達距離は約1mで、防護なしの場合よりも大幅に短くなるとしており、マスクがない場合の対処として一定の効果が見込めそうだ。
最後は、マスクをした場合だ。使用するマスクは厚さ1mmの不織布製の市販マスクを想定し、流速に依存して圧力損失(抵抗)が発生する条件を設定。マスク自体が液滴を捕捉する作用についても考慮していない。マスクの周囲に関しては顔との間に1cm以下の隙間があるとしている。
以上の条件を用いた結果、くしゃみによる液滴は鼻とあごの周りの隙間から上下方向に吹き出すが、前方に向かって運ばれる液滴は少なく、液滴のほとんどがくしゃみをした本人の周囲に漂うことが分かったという。
最後に本レポートのまとめとして「実際は、外部気流の影響や体温による上昇流の影響もあるため、このような単純な条件では済まないが、今回のシミュレーションでは少なくともマスクを着用することで、くしゃみに伴う液滴の飛散距離が大きく抑えられることが確認できた」(入江氏)としている。
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