AIの活用は、医療従事者の診断プロセスを効率化する上でも役立つと考えられる。
例えば、新型コロナウイルス感染症の初期診断で効果的とされるCT(コンピュータ断層撮影)検査にAIを活用した場合、肺炎の可能性が数秒で診断できるようになる。現在、新型コロナウイルスの感染判定に広く用いられているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査が、検査終了までに約4時間を要することを考えると検査時間を大幅に短縮できていることが分かる。
「AIはCTスキャンデータから、肺内部に肺炎の疑いを示す不自然な陰影の有無を分析する。注意しなければならないのは、CT検査で分かるのは肺炎の可能性だけで、新型コロナウイルスに感染したかどうかを直ちに判断することはできない。ただPCR検査の前検査として実施すれば、PCR検査を受けるべき人を短時間でスクリーニングできるため、検査作業の効率化には貢献する」(スン氏)。
また診療や治療薬の開発だけでなく、新型コロナウイルス関連の論文を分析するためにAIを活用することも可能だと指摘する。「新型コロナウイルスに関連した査読済み論文などを含むオープンな論文データセット『COVIDオープンリサーチデータセット(CORD-19)』には、現時点で合計4万4000件の学術文献が投稿されている。これほど膨大な数の論文を人間の研究者が読み込むことは困難だ。一方で、これらの論文をAIが解析すれば、現時点での新型コロナウイルスの感染拡大のスピードなどについて新しい知見が得られる可能性がある」(スン氏)。
スン氏は新型コロナウイルスに対する各国の対策について「AIを導入することで感染予防はもちろん、診断や治療といった各プロセスの効率化と質向上が図れる。これらに用いるAIは、既存の技術で十分開発できるものばかりだ。長期的な経済損失を防止するためにも、各国政府にはAIソリューションの積極的な導入を進めてほしい」と語り、今後の新型コロナウイルス対策におけるAI活用の進展に期待感を示した。
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