東京大学は、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の感染の最初の過程を阻止することで、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性がある薬剤としてナファモスタットを同定した。
東京大学は2020年3月18日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染阻止が期待される薬剤として、セリンプロテアーゼ阻害剤である「ナファモスタット(商品名:フサン)」を同定したと発表した。同大学医科学研究所 教授の井上純一郎氏らの研究成果だ。
COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の感染の最初の過程である、ウイルス外膜と感染する細胞膜との融合を阻止することにより、ウイルスの侵入過程を効率的に阻止する可能性があるとして同薬剤を同定した。
SARS-CoV-2がヒトに感染するには、ウイルス外膜とヒトの細胞膜の融合が重要だ。ウイルス表面のSpikeタンパク質(Sタンパク質)がヒト細胞の細胞膜上にあるACE2受容体と結合した後に、タンパク質分解酵素のTMPRSS2によりSタンパク質が切断されると膜融合が進む。
今回研究チームは、ヒト胎児腎臓由来の293FT細胞やヒト気道上皮細胞由来のCalu-3細胞を用いて、ナファモスタットがSARS-CoV-2 Sタンパク質による膜融合を抑制するかどうか検討した。その結果、293FT細胞では10〜1000nMで、Calu-3細胞では1〜10nMで膜融合を抑制した。
また、既にSARS-CoV-2に対する有効性が発表されており、ナファモスタットと類似のタンパク質分解阻害剤である「カモスタット」の作用と比較検討したところ、ナファモスタットはカモスタットの約10分の1の濃度で阻害効果を示すことが明らかとなった。
ナファモスタットとカモスタットはともに、急性膵炎などの治療薬剤として国内で長年にわたり処方されてきた。安全性については十分な臨床データがあり、速やかに臨床治験を行うことが可能だ。
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