一方、本連載第45回で取り上げたデンマークをみると、ロボティクス/IoT技術が欧州域外でクローズアップされている。
2020年2月19日、デンマーク・オーデンセのロボット開発スタートアップ企業UBDロボット(関連情報)と中国−欧州間の医療機器サプライヤー企業であるHealthcare Supply(関連情報)は、新型コロナウイルス感染症対策支援のため、中国の2000以上の病院向けに、自律走行型紫外線殺菌ロボット「UVDR(UV-Disinfection Robot)」(図2参照)を出荷することで合意したと発表した(関連情報)。このロボットについては、欧州委員会のデジタルイノベーション・ブロックチェーン担当チーム(Unit F.3)も、翌3月16日に伝えている(関連情報)。
UBDロボットは、デンマーク企業のブルー・オーシャン・ロボティクスとオーデンセ大学病院(OUH)などとの官民連携パートナーシップによる院内感染防止目的のイノベーション・プロジェクト「RoBi-X」から生まれた企業であり、デンマーク国内5地域およびマーケット・デベロップメント・ファンド(Markedsmodningsfonden)が連携したホスピタル・パートナーシップ(Sygehuspartnerskabet)の支援を受けている。
UBDロボットが本拠地を構えるオーデンセは、ロボティクス(関連情報)、ドローン(関連情報などの産業クラスタが集積するイノベーション都市としても知られている。直近では、2020年2月4日、米国のエレクトロニクス産業向け自動試験装置(ATE)メーカーだるテラダイン傘下のモバイル・インダストリアル・ロボッツ(MiR)とユニバーサルロボット(UR)が、世界最大規模の協働ロボット・ハブ「Cobot Hub」をオーデンセ市内に建設することを発表している(関連情報)。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、リアルな物理的活動が制限される健康医療・介護福祉の現場は、産官学連携パートナーシップから育まれたロボティクス技術を社会実装するためのイノベーション・サンドボックスと捉えることができる。
なお、デンマークでは、国立血清学研究所(SSI)(関連情報)の下で、国立感染症管理センター(CEI)(関連情報)が感染症対策を担い、バイオセキュリティ・バイオ事前準備センター(CBB)(関連情報)が生物兵器対策を担っている。
本連載第32回で取り上げたように、北欧・バルト諸国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド、エストニア、ラトビア、リトアニア)は、積極的な地域連携活動を展開してきた。2020年3月16日、北欧・バルト諸国は、オンラインで外務閣僚会議を開催し、COVID-19に関する共同宣言を発表している(関連情報)。共同宣言の骨子は下記の通りである。
同月17日、欧州委員会が、科学に基づき調整されたEUリスク管理対策ガイドラインを策定するために、さまざまな加盟国からの疫学者やウイルス学者により構成されるCOVID-19諮問委員会を設置したことを発表している(関連情報)。
さらに同月19日、欧州委員会は、COVID-19パンデミックに緊急対応するEU諸国を支援するため、人工呼吸器、保護マスクなど医療機器の戦略的な「rescEU」備蓄を設立することを決定し(関連情報)、20日には、各加盟国がCOVID-19拡大期の経済を支援することを可能にする暫定フレームワークを採択した(関連情報)。このフレームワークの支援対象は、以下の5つである。
本連載第50回で触れたように、EUは、現行の「医療機器指令(MDD)」や「体外診断用医療機器指令(IVDD)」、「能動埋め込み型医療機器指令(AIMD)」およびそれらに基づくCEマーキング制度などを域内のミニマムスタンダードとして、各国規制当局が個別に所管し、関連法令を制定・運用する方式から、「医療機器規則(MDR)」(2020年5月26日適用開始予定)(関連情報)や「体外診断用医療機器規則(IVDR)」(2022年5月26日適用開始予定)(関連情報)を域内統一ルールとして、各国規制当局が連携して所管する方式への移行期間にある。
このような過渡期の中、北欧・バルト諸国外務閣僚会議も、欧州委員会も、新型コロナウイルス危機対応時における医療機器サプライチェーンの安定維持を最優先課題として掲げている点が注目される。
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