全世界で逆風が吹くメイカースペースに必要なものポスト・メイカームーブメント(2)(3/5 ページ)

» 2020年03月13日 10時00分 公開
[越智岳人MONOist]

ファブラボ仙台が提示する地方メイカースペースの在り方

 もちろん、全てのメイカースペースが苦境に立たされているわけではない。運営者が自ら働き掛け、持続的な事業としての成立に成功しているメイカースペースも存在する。

 その1つが仙台市の中心にある「ファブラボ仙台」だ。仙台市の事業として2013年にオープンし、2015年からは民間に移管された。現在、運営するのはFLATのデザイナーである小野寺志乃氏とエンジニアの大網拓真氏の2人だ。

 ファブラボとしての運営は週3日、それ以外の日はFLAT(一般社団法人)として外部から受託した仕事をこなす。地元企業からのデザインや開発などの受託案件に加え、地元大学や産業技術センターでの講師やファブラボに設置されているデジタル工作機械の導入コンサルティングなど、仕事の相談は多岐にわたる。

小野寺志乃氏大網拓真氏 「ファブラボ仙台」の小野寺志乃氏(左)/大網拓真氏(右) [クリックで拡大]

 一方で、ファブラボのオープン日には工作機械を利用する地元大学生や会社員、クリエイターなどが利用する。近年はレーザーカッターやUVプリンタが一般層に浸透したこともあり、普段モノづくりをしない層のユーザーが冠婚葬祭用のグッズを製作したり、趣味や副業の製作をしたりするケースも増えているという。

 「ファブラボとしての利益はほとんどないが、かつて学生だった利用者が社会人になってデジタル工作機械の導入を相談するケースもあり、間接的に利益を生み出すきっかけにもなっている。法人から受託した仕事と、ファブラボでのプロジェクトの両方が、緩やかにつながることで経営が安定化している」(大網氏)

 民間での運営に切り替わるに当たって、2人が重視したのは、ファブラボからの収益に頼らないこと、運営者自身がスキルと仕事を持つことだという。

 「メイカースペースを運営する上でビジネス面を見るマネジャーと、手を動かせるエンジニアは絶対に必要。どちらが欠けていても成立しない。それぞれが兼務してもいい」(小野寺氏)

 ファブラボ仙台では、これまで製作した作品や事例を施設内に展示しておくだけでなく、Webサイト上でも講演やワークショップの資料を公開している。自分たちができることを積極的にアピールすることで、地域経済のニーズを漏らさずにキャッチしたいという思いがある。2人はファブラボを運営する上で重要なのは、機材や技術ではなく「人だ」と断言する。

 「大きな目的はなくてもいいから、運営者自身に『作りたい』という意思がないとファブラボの運営は難しい。よく、外部からファブラボを経営する上でのノウハウを聞かれるが、シンプルに『頑張るしかない』としか言いようがない。自ら手を動かしてモノを作り、人と人をつなげたり、自分の知識をレクチャーしたりすることで、ファブラボの存在意義を地域に根付かせるということを地道にやってきたからこそ、ファブラボ仙台は継続できているのだと思う」(小野寺氏)

 人がメイカースペースの中心にあるのは、これまで指摘した通りだが、そのリソースをどこに割くかも重要だ。その用途を自ら考え、徹底することが重要だという。

 「ドイツの『FIT AG』というアディティブマニュファクチャリングのサービスビューロの方が仙台に来た際、機材のメンテナンスはメーカーに任せているのかと聞いたところ、『全て自分たちでやっている』と答えたのが印象的だった。彼らは朝から晩まで3Dプリントのコストについて話し合ったり、考えたりしているそうで、そのコスト意識の高さはもちろんだが、メーカーに任せずに自らメンテンスもするという姿勢には驚かされた」(大網氏)

 ファブラボ仙台の場合、誰かが来るのを待つのではなく、自分たちができることを常に発信し、ファブラボの外にいる人たちと積極的に関わっていく「コミュニケーション」を徹底している。

 「マネジャーとエンジニアが不可欠という話をしたが、チアリーダー的な存在も実は重要。つまり、面白がって話し掛けてくれたり、誰かの背中を押してあげたりできる人だ。海外のファブラボでも、うまくコミュニティーが成立しているところを見ていると、中の人が来た人全員に声を掛けている。話がある人とは、そのまま会話につながるし、特に話がない人に対しても『あなたのことを、ちゃんと見ていますよ』という緩やかな意思表示になる」(大網氏)

 地域のメイカーコミュニティーを充実させながら、運営者の技術と知見を法人に提供することでマネタイズする。この両輪を回せる人材がメイカースペースの中心にいることが運営を持続させるための重要なポイントなのかもしれない。

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