地域課題という切り口ではないが、特定の領域にフォーカスしてデジタルファブリケーションを活用する取り組みを後押しするファブラボがある。
東京・品川にある「ファブラボ品川」は、作業療法士が中心となり3Dプリンタなどを活用して、リハビリ患者らが個々に必要とする自助具を開発。それらをオープンソースデータとして公開する活動を推進している。
既存の自助具はこれまで外注したり、加工技術を持つ専門の職人に依頼したりする必要があったが、3Dプリンタの登場により、必要なものを、必要な人に、必要な数だけ、極めて低コストに提供できるようになった。
ファブラボ品川の取り組みは、スタートアップのビジネスに比べれば、成長性は大きくないかもしれない。しかし、今ある地域の課題を解決できるだけでなく、自らモノづくりを通じてアクションを起こせる人材を育成できるなど、社会的な意義は非常に高い。こうした活動を実行する場として、ファブラボのような地域に根差したメイカースペースは有効であり、自治体としても活動を支援する意味は大いにあるだろう。
メイカースペースを運営する側としては、行政を動かすためのアクションも必要となる。
「モノづくりが好きな人たちだけでなく、行政とも握手できるスキルがファブラボの運営者にも求められる。作りたいモノを作って披露するだけでは彼らは動かない。社会の中で、自分たちが何を目指しているのかを明確に伝えることが重要だ」(田中氏)
規模は異なるが都市型のTechShop、地域密着型のファブラボのいずれも中心にあるのは個人とコミュニティーの力であり、その価値は2010年代に十分証明された。しかし、継続するには規模に応じた戦略が重要だ。ファブラボのような地域に根付いたメイカースペースも、TechShopのような都市型の大規模メイカースペースも必要なのは、自ら手を動かしながらも、手を動かそうとしている人や、何かにちゅうちょしている人の背中を正しく押せる人間だ。 (次回に続く)
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