日本でも進む製造業のコト売りへの移行「マインドセットは変わりつつある」製造マネジメント インタビュー

日本企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる中で、中核産業である製造業にも変化が起こりつつある。サブスクリプションモデルに代表されるソフトウェアを中核とした収益確保のためのソリューションを提供しているタレスグループ傘下のソフトウェア収益化事業部門に、グローバルでの事例や日本国内での動向について聞いた。

» 2020年01月10日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 製造業を筆頭に日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな課題になっている。進化を続けるIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、クラウドなどのデジタル技術を、自身の業態にどのように取れ入れていくかが今後の成長を左右する状況にあるからだ。また、これらのデジタル技術がソフトウェアを中核とすることから、ハードウェアよりもソフトウェアを重視するトレンドも生まれつつある。

 優れたハードウェアを安価に作って売るというモノ売りのビジネスモデルで成功を収めてきた日本の製造業にとって、軸足をハードウェアからソフトウェアに移すことは容易ではない。また、そのソフトウェアによって新たに付加価値のあるサービスを提供し、サブスクリプションモデルなどの形で収益を得ていくハードルはさらに高い。

コト売りへの移行で成長率が1桁%から20%に

 サブスクリプションモデルに代表されるソフトウェアを中核とした収益確保のためのソリューションを提供しているのが、タレスグループ(Thales Group)傘下のソフトウェア収益化事業部門だ(2019年4月、タレスグループがジェムアルト(Gemalto)を買収することで傘下に)。同事業部門が展開する「Sentinel」は、パッケージソフトウェアのライセンス管理などで広く利用されてきたが、近年はハードウェアに組み込まれたソフトウェアを適切に管理することにより製造業の新たな収益確保の支援にも貢献している。

 同事業部門を統括するタレスグループ グローバルセールス部門 バイスプレジデント クラウドプロテクション&ライセンシングのダミアン・ブロット(Damien Bullot)氏は「顧客のトランスフォーメーションの速度は加速しており、それをサポートすることでわれわれの成長も加速している。例えばある製造業は、それまで年率1桁%の成長率だったが、われわれのソリューションを活用してモノ売りからコト売りに移行することで20%成長を達成している」と語る。

タレスグループの高橋均氏、ダミアン・ブロット氏、ジャム・カーン氏 左から、タレスグループの高橋均氏、ダミアン・ブロット氏、ジャム・カーン氏(クリックで拡大)

 この他にも、米国医療機器メーカーのストライカー(Stryker)、ドイツ農業機械メーカーのクラース(Claas)、米国測定機器メーカーのウォーターズ(Waters)などが、Sentinelの採用によってサブスクリプションモデルへの移行に成功している。「例えばストライカーの場合、同社の血圧モニターシステムは大規模病院でなければ購入できない高価な製品だった。このままでは市場拡大が見込めない中、中小規模病院で利用できるように買い切りではなく従量課金のサービスとして提供することになった」(ブロット氏)という。

 クラースの農業機械も、従来の機器の売り切りからソフトウェアアクティベーションによって機能を購入してもらうビジネスモデルを導入して売上成長につなげている。ブロット氏は「ソフトウェアによって顧客ごとに機能を付け加えるのは、自動車でも可能だろう。例えば、週末の余暇のタイミングではエンジンをハイパワー化して、通勤に使う平日はいつも通りに戻す、などだ。日本には、有力な医療機器メーカー、農業機械メーカー、測定機器メーカーがあるので、これらのグローバルの事例をシェアしていきたい」と意気込む。

ソフトウェアは部品のようにERPでは管理できない

 欧米に比べてデジタル化での立ち遅れを指摘されがちな日本の製造業だが、Sentinelの採用という意味では活発になっている。ジェムアルト日本法人 クラウドプロテクション&ライセンシング ソフトウェアマネタイゼーション事業本部長の高橋均氏は「2019年、ソフトウェアマネタイゼーション事業としては25%成長になった。顧客の割合も、65%が製造業、残りの35%がソフトウェアベンダーとなっており、これまでより製造業からの引き合いは強い」と説明する。

 また、ソフトウェア収益化ソリューションの導入検討についても、関係部署やステークホルダーを集めて課題を見据えながら、事業へのインパクト、収益化構造なども把握して行うなど、「とりあえずサブスクをやりたい」といった抽象的な要求は少なくなっている。「日本の顧客のマインドセットは明らかに変わりつつある」(高橋氏)。

 とはいえ課題がなくなっているわけではない。高橋氏は「製造業として成功体験から、ハードウェアセントリックな考え方はまだ強く残っている。製品を構成する部品などはERPなどで管理できているが、同じ構成要素であるにもかかわらずソフトウェアはERPでは管理できず、そこにギャップが存在する。Sentinelはそのギャップを埋めるソリューションだ」と強調する。

 タレスグループ プロダクトマネジメント&マーケティング担当バイスプレジデント クラウドプロテクション&ライセンシングのジャム・カーン(Jam Kahn)氏は「日本市場でもサブスクリプションモデルに対する意識が高まっていることは確かだ。そこで、いま一度考えてほしいのが、コンシューマーがより力を持ちつつあることだ。B2Bビジネスを手掛けている限り関係ないと考えるかもしれないが、B2BCという形で最終的にはコンシューマーにつながっていく。IoTなどでコネクテッドになることで、この傾向はより強まっている」と語る。

 今後、Sentinelなどのソリューションによって得られるライセンス情報はさまざまな場所で重要な役割を果たしていくことになる。「コト売りに移行する上で、顧客の声を取り入れていくことは当然のことだ。製造業の場合は、サービスを提供主体となる製品自体にの声に耳を傾けなければならない。ライセンス情報はその基盤となるだろう」(カーン氏)という。

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