製造業がサブスクリプションに踏み出す上で理解すべき3つのポイントサブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代(3)(1/3 ページ)

サブスクリプションに代表される、ソフトウェアビジネスによる収益化を製造業で実現するためのノウハウを紹介する本連載。第3回は、サブスクリプションや従量制に代表される新しいビジネスモデルに移行する上で理解しておくべき3つのポイントを紹介する。

» 2019年12月25日 11時00分 公開

⇒連載「サブスクで稼ぐ製造業のソフトウェア新時代」バックナンバー

 製造業では、ソフトウェアを通して新たな価値を提供するサービスビジネスの時代が到来している。製造業のビジネスがモノ売りからコト売りに移行しつつある中、顧客体験に価値を見いだすソフトウェアビジネスは、デジタル化によって今までは不可能だった新たなビジネスモデルを可能にさせる。

 ソフトウェアビジネスの世界でデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現させることは、ソフトウェアをマネタイズ(収益化)させることだといえる。そのポイントの一つとして「新しいビジネスモデルとテクノロジーで新たな収益ストリームを創造する」ためには、企業は何を考え、どう取り組めばよいだろうか。

 今回は、サブスクリプションや従量制に代表される新しいビジネスモデルに移行する上で理解しておくべき3つのポイントを挙げていこう。

1.“紳士協定”と自前ライセンス技術が引き起こすビジネスの袋小路

 売り切り型のビジネスモデルから、サブスクリプションや従量制などの新しいビジネスモデルへの移行に必要な手段は、ライセンス契約の履行をデジタル化させることであり、今やソフトウェアを収益化させるために欠かすことのできないテクノロジーになっている。

 しかしながら、ライセンス契約の履行のデジタル化に踏み切らず、ライセンス契約のみの締結というアナログなビジネスでも良いと考えるような、デジタルトランスフォーメーションから懸け離れた考え方を持つベンダー企業も少なくない。いわゆる紳士協定のビジネスだが、それでは本来得られるはずの多くの利益を失うのは想像にたやすく、新たなビジネスモデルを展開するには無理が生じることになる。

 紳士協定では、サブスクリプションの利用期限契約や、利用可能なアカウント数の管理、従量制課金などを厳密に管理するのは不可能だ。利用状況報告などを顧客の申請に依存することは、顧客側にとっても業務負荷が高くなる。また、意図的でないライセンス契約外の利用防止や、カジュアルコピー対策など、顧客企業のコンプライアンスに一方的に頼る手段では、顧客満足度の向上も期待できず、いずれビジネスが破綻することは目に見えている。

イメージ ※図はイメージです

 これ以外にも、自前主義で自社開発のプアなライセンス技術で、サービスビジネスに挑もうと考えるベンダー企業も残念ながら存在している。

 大抵、自社開発のライセンス技術はビジネスモデル構築に関するノウハウが不足しているため、対応できるビジネスモデルに限界がある。そのため、売りたいビジネスモデルで、すぐに製品を市場に投入できないことが問題となっている。また、常に移り変わる市場動向をキャッチしながら新しいビジネスを実現できないため、自社製のライセンス技術がビジネスの足かせになっているという声はよく耳にする。

 そういった背景から、売りたいビジネスモデルにライセンス技術を対応させるため、ライセンシングからバックオフィス機能も含めて、数カ月、もしくは1年以上も開発期間が必要となることは珍しくない。

 ソフトウェアの収益化を真剣に考える場合、常に自社開発のライセンス技術に開発投資し続ける必要がある。しかし、次第に時代遅れとなることが分かっている自社製のライセンス技術を、独力で管理・維持するために時間とお金を費やしたとこで、投資対効果は思ったほど得られないのは分かり切っているはずだ。

 例えば、最先端のAI(人工知能)企業やその開発エンジニアが、時代遅れとなることが明確な自社製のライセンス技術にパッチを当てるよりも、新たな技術やビジネスに時間と労力を費やす方が、よっぽど理にかなった働き方ではないか。貴重なIT人材のリソースの配置と、技術投資対象の判断を誤った場合、これは言うまでもなく経営幹部の責任だ。

 そして、自社開発ライセンス技術の失策が明確に露呈するのは、サービス開始を迎えて少し後になってからだ。移り変わる市場の動きや顧客のニーズに対処できず、ビジネスに行き詰ってからようやく技術投資の判断に誤りがあったことに気付くことになる。多くの時間と、お金と、ビジネス機会の全てを失う前に、経営幹部は戦略の失敗に早く気付かなくてはならない。

 最終的には、自社開発したライセンス管理技術の利用を諦めて、アナログなビジネスに逆戻りするような企業も出てくる。もちろん今までの技術投資も回収できず、アナログなビジネスからは目立った収益化も期待できない。まさに袋小路だ。

イメージ ※図はイメージです

 従来のビジネスモデルや売り方、自前主義の技術にしがみついてこだわり、変革を受け入れないままでいると、企業は衰退の一途をたどる。これは日本のソフトウェアビジネスがグローバルで躍進できない原因の縮図を表しているかのようだ。

 今はまさに会社全体のビジネスの在り方を変える時期に差し掛かっている。ソフトウェアビジネスのデジタルトランスフォーメーションの実現は企業の将来を担い、命運を左右することだと理解する必要がある。やはりビジネス変革を実現させるために、ライセンスの履行をデジタル化させことが時代にふさわしい妥当な判断だといえる。

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