公差で逃げるな、マツダ「SKYACTIV-X」がこだわる精度と品質エコカー技術(2/3 ページ)

» 2019年12月06日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

ガソリン圧縮着火を支える正確な量産

 SKYACTIV-Xは480項目の品質検査を受ける。圧縮比や比熱比の向上とSPCCIは、従来設定してきた以上に小さい公差を狙うことで実現している。公差は「エンジン部品を組み合わせた状態で、コピー用紙1枚分くらいの薄さで管理している。各部品の公差を積み上げて100としたとき、その半分以下で管理する」(マツダの技術者)というほどで、全数保証にはその精度を確認する品質検査が欠かせない。その一例が、「ピストントッピング計測」だ。

 ピストントッピングとは、ピストンが上死点まで上昇したときのピストンとシリンダーブロックの間の寸法のことで、圧縮圧力を決める重要な箇所なのでミクロン単位で計測している。SKYACTIV-Xで圧縮比を16.3まで上げるには、SKYACTIV-Gと比べてピストントッピングのばらつきを24%低減する必要があった。そのため、シリンダーブロックやクランクシャフト、コンロッド、ピストンの加工精度を高めてオイルクリアランスも考慮して公差を詰め、組みあがった状態でピストントッピングを正確に確保しなければならない。ピストントッピングのばらつきは、初代アテンザのエンジンを基準にすると、SKYACTIV-Gで39%、SKYACTIV-Xで54%低減しているという。

 これまでピストントッピングの計測は人の手で行っていた。人の手で上死点までピストンを動かすため、エンジンが回っている条件とは異なっていた。また、ピストンが左右に微妙に倒れることによる誤差も課題となっていた。こうした課題を解決するため、実際にエンジンを回転させながら機械でプローブを2カ所に当てて計測することとした。ピストントッピングはSKYACTIV-X全数を対象に測定している。

加工品質と燃料室の容積をひも付けて生産性向上を続ける(クリックして拡大)

 シリンダーヘッドでは公差半減を達成する高精度加工技術を採用した。マシニングセンタにセンサーを取り付け、治具のポイントを測定し、内部の温度変化やモーターの発熱を把握しながら加工位置を補正する。マシニングセンタは、ワークや内部の温度変化、挙動を受けて加工動作条件にフィードバックする機能を持たせている。燃焼室の容積はこれまで抜き取り検査だったが、SKYACTIV-Xからは光コム式レーザー計測器を導入して全数検査し、圧縮比の機能を保証する。また、燃焼室容積のデータと加工表面の精度のデータをひも付けて品質に影響する要因を特定。制御すべき因子を絞り込み、作業者が確認や矯正の指示を出しやすくした。

 この他、実際の圧縮圧力も測る。センサーを燃焼室に差し込み、エンジンを回しながら吸排気バルブのタイミングや流れる空気量を測定し、意図した機能になっていることを確認する。自動化した外観検査では、仕様や組み付けの状態を確認。QRコードでサプライヤーでの生産情報もひも付けて追跡する。最終的には、エンジンと車体もひも付けており、「このクルマに乗ったこのエンジンは、サプライヤーがいつ部品を作ったかまで分かるようにしている」(マツダの技術者)。

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