流体解析をテーマに、入門者や初学者でも分かりやすくをモットーに、その基礎を詳しく解説する連載。今回は変形や移動、回転など、動きのある物体を解析するアプローチについて取り上げる。
皆さん、こんにちは。ようやく過ごしやすい季節になってきました。秋の爽やかな風を感じると、どうも流体解析したくなるのは職業病でしょうか?
ここまで外部流れ、内部流れの解析を幾つかやってきましたが、そういえばまだやっていない種類の解析がありました。これまで紹介してきた解析は、配管の中の流れにしろ、飛行機や翼周辺の空気の流れにしろ、どの物体も“動かない状態”での解析でした。もちろん、現実には飛行機や自動車など、物体の方が動いているわけなのですが、これら解析の世界の中では“空気の方が流れている”ということが前提として扱われているのです。解析モデルについても、一度作成したメッシュが動くわけではありません。
しかし、世の中そのようなモデルで解析できるものばかりではありません。例えば、プロペラやファンなどを考えてみましょう。ここでは、PCの筐体内の排熱に注目してみることにします。
PCの筐体内にあるほぼ全ての部品は固定されており、可動部品はありません。もし、本当に可動部品が全くないのであれば、後は筐体に空気の流入と流出の条件や、発熱の条件などを付加してやれば、筐体内部の空気の流れや温度分布などを解析できます。
ところが、実際には他の部品とは違って、常に動いている部品があります。ファンなどがそうです。ファンの周りの挙動が解析対象でない場合、通常、一般的なファンの性能はPQ特性などで表現できるため、熱流体解析ソフトの多くで用意されているファンモデルを使用することで、ファンが動いて空気が流入する条件などを再現できます。
そうではなく、実際にファンを回転させてその挙動を見てみたいとなると話が変わってきます。ただ、ほとんどの場合、解析のメッシュは最初の物体の形に沿って切られているわけなので、「物体の変形や移動、回転などをどう表現(設定)したらよいか?」と疑問を持たれる方も多いと思います。
実はこうした要求に応える解析手法が、多くの商用ソフトで用意されています。今回はそうした手法の1つを紹介します。
このような解析の説明では、分かりやすいシロッコファンなどがよく用いられますが、今回は前回取り上げた翼の解析をそのまま使ってみることにします。
翼は「迎え角(AOA:Angle Of Attack:α)」がある角度以上に大きくなると、流れが翼から剥離して乱れてしまうため、今回の解析では連続的に翼の角度を変え、流れがどのように変化するのかを見ていきます。
最初に紹介するのが「要素移動」です。図1のモデルを見てみましょう。前回解析に使用した翼の断面です。
少し分かりづらいかもしれませんが、図1を見てみると、翼の周囲とさらにその外側の領域を分ける“円”があると思います。この円の内側のメッシュですが、その相対的な位置は翼と常に同じで変わることはありません。今回は、翼の迎え角を変える際に、翼を時計回りに回転させますが、円の内側のメッシュはその動きに追随することになります。
一方、外側のメッシュは翼の動きにかかわらず、常にその位置、大きさが同じです。つまり、このような回転する物体を解析する際は“その物体の周りのメッシュも一緒に動かしてしまおう”というわけです。
別の言い方をすると、流体部分のメッシュを「静止領域」と「移動領域」に分けるということです。
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