従来、デンソーは設計者が加工技術者に加工を依頼する際、2次元図面を渡していた。これは今も多くの現場で一般的な情報の受け渡し手段として用いられている。加工技術者が汎用(はんよう)機を用いる場合、図面を参照しながら加工作業を行う。一方、NC機(自動機)の場合、2次元図面を参照しながら加工用の3Dモデルを作り、さらにそこからツールパスを生成し、加工機械へデータを渡していた。デンソーの場合、前者は3割、後者は7割であるという。この7割の部分で、もともと3Dデータがあるはずの設計物の3DモデルをNC加工用に作り直すという二度手間が発生していた。
デンソーは汎用機とNC機、いずれの加工現場に対しても3D CADを提供し、データを見てもらうようプロセスを変更。3Dデータが使えない汎用機の場合、どうしているのかといえば、加工技術者が3D CAD上でモデルの寸法を確認することとした。また、公差は設計モデルの寸法に振るようにした。モデルだけでは分かりづらい基準面については、該当面の色を変えるなどして工夫した。
設計側は、2次元図面を描く時間がそのままなくなったことで、寸法や公差の指示作業が、図面で行っていたころと比較して8割も削減できたという。
デンソーは、設計者と加工技術者、双方を集めた図面レスの定例会を月2回開催している。3D CADに不慣れな加工技術者に対しては、操作教育も実施。加工技術者は、忙しい中で3D CADのオペレーションをマスターしなければならなかったが、「手応えのある効果が得られた」と山本氏は語る。
NC機には3次元の設計モデルをそのまま渡し、加工技術者は設計側で使っている3D CADと連携できるCAM(SOLIDWORKS CAM)を習得して、それを用いてツールパスを生成するようにした。片側公差で指定された寸法も、3D CADを使って加工技術者自身が修正する。設計変更があってもツールパスも自動で修正される。これらの取り組みにより、従来のCAM設定時間から比較して約40%の時間短縮が図れたという。
汎用機の現場では、機械のそばに3D CAD用のモニター台車を製作して設置した。2次元図面を用いていた際に頻発していた読み取りミスがなくなったり、寸法の計算時間が短縮できたりと多くのメリットが得られた。また、2D図面時代には寸法抜けが判明すると、いちいち設計側に問い合わせをしなければならなかったが、そうした作業が不要となり、余計な業務から解放された。
このように、図面レスへの取り組みは社内で前向きに進んでいるが、「社外の協力会社とのデータ受け渡しについてはまだ課題が残る」(山本氏)ということだ。
以上のような施策により、設計検証の時間が従来プロセスと比較して約75%削減でき、モノづくりのスピードも約42%向上した。しかし、それでもまだ「開発スピード10倍」という目標達成には至っていないという。
今後の展開として、デンソーは2020年6月に、東京都大田区にある羽田空港跡地に自動運転技術の研究開発拠点を開設する。刈谷市のデンソー本社との共同デザインレビュー実施に向けて準備を進めているところだという。また、VR設計の取り組みや検査の自動化についても加速させていく方針を掲げる。
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