大手建設機械メーカーのコマツは、“つながる化”をコンセプトに、調達・生産から販売、アフターサービスの提供に至るまでのサプライチェーンの最適化を進めています。
調達・生産サイドにおいては、工作機械、溶接ロボット、熱処理装置などの生産設備の稼働情報をIoTにより見える化し、稼働率や出来高といったパフォーマンスの差を特定することで、生産性の向上、リードタイムの短縮、ダウンタイムの削減などを実現しています。自社だけではなく、協力会社の生産設備ともつながっており、生産や輸送に関するジャスト・イン・タイムの的確性向上にも役立てられています。
販売・アフターサービスサイドでは、2001年よりコマツの建設機械に標準装備されている機械稼働管理システム「KOMTRAX」を活用することで、効率的かつ効果的な営業活動と、アフターパーツロジスティクスにおける在庫と機会損失の最小化を実現しています。KOMTRAXを使えば、その地域で過去に販売した建設機械の稼働状況を個体別に把握できるからです。
例えば、建設機械の稼働が高ければ、「土木・建築工事が増えていると見なして販促活動により多くの営業リソースを投下する」こともできます。過去に販売した建設機械の累計稼働時間が分かれば、「より適切なタイミングでオーバーホールを提案する」「アフターパーツの需要をより正確に予測し、在庫量を柔軟に変動させる」ことも可能です。現場での使われ方が分かれば、「その現場での生産性の向上に有効な建設機械の購入・使用を提案する」「現場での使われ方に即した新しい建設機械を開発する」こともできるようになります。
コマツは、KOMTRAXの提供を通じて培われたデータ基盤をベースに、2015年から「スマートコンストラクション」と称する取り組みを開始しました。センサーやカメラなどが搭載された各種の「ICT建機」を有機的につなぐことで測量から検査までの現場の全てを見える化し、生産性や安全性を飛躍的に高めようとするソリューションです。工事事業者は、このスマートコンストラクションの仕組みを利用することで、作業工数を削減できたり、工期を短縮できたり、危険な作業を減らせたりします。コマツは、スマートコンストラクションの提供を通じて、「モノ売りからコト売りへの進化」を成し遂げつつあるといえるでしょう。
世界最大の農業機械メーカーであるジョンディア(John Deere)も、自社の農業機械にGPSやセンサーを取り付けて、その現在地情報や稼働状況を把握し、アフターパーツの収益拡大に役立てています。コマツと同様の取り組みが農業機械の世界でも展開されているわけです。
ジョンディアは、農業機械から得られたデータを自社のサプライチェーンの最適化に役立てるだけではなく、農薬・肥料・種子などのメーカーに外販しています。これらのメーカーからしても、農業機械の稼働状況を通じて、農薬・肥料・種子などの使用状況が分かれば、生産量や在庫量の最適化を図れます。だからこそ、ジョンディアからデータを購入しているわけです。ビッグデータを収集・蓄積できても、新たな収益の獲得に結び付けられない事業者が多い中で、ジョンディアは数少ない成功例の1つといえるでしょう。
ジョンディアは、「FarmForward 2.0」という未来構想を掲げています。農業生産に必要とされるデータを遍く収集し、生産性を高めるための方法をデジタルに判断できるようになることを理想としています。つまり、農業機械という「モノ」ではなく、農業生産という「コト」の革新を目指しているわけです。察するに、ジョンディアは、「農業機械メーカーから農業生産プラットフォーマーへの進化」を図ろうとしているのではないでしょうか。
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