ガラスモールド工法によるマイクロ化学チップの製造は、設計、金型加工、成形、マイクロ流路が作り込まれた基盤とガバーガラスとなる平板の接合によって行うデバイス化、分析機器などに接続するためのハウジングなどを組み付けるインタフェースといった工程に分かれる。これらのうち、金型加工と成形の他、量産性向上を目的として新たな技術開発を行った。
ガラスモールド工法の金型加工は、構造の粗加工になる放電加工の後、マシニングセンターと独自開発の刃物、加工条件を組み合わせての切削加工、そして熟練技術者による手磨きまで含めて金型表面を鏡面化する磨き加工の3つに分かれる。マイクロ化学チップの場合、水質検査のための流路構造や汎用の十字流路、μlレベルの反応容器となるウェルの形成など数十〜数百μmの構造を放電加工で作成する。切削加工では、放電加工で作成した構造をさらにμm以下の精度に仕上げ、最後に磨き加工を行う。鈴木氏は「切削加工と磨き加工のプロセスにパナソニック独自の技術のノウハウがつまっている」と説明する。
完成した金型を用いての成形では、転写不良や割れを防ぐために温度や圧力などの成形条件を調整するとともに、独自の離型膜や離型剤を採用した。また量産性の向上については、成形工程を予熱、プレス、冷却の3つに分割することで、分割しない場合のタクトが30〜60分のところを3分の1に短縮したという。マイクロ化学チップの量産を担当するパナソニック インダストリアルソリューションズ社傘下のパナソニック デバイス日東には、成形工程を3つに分割した試作装置が納入されている。
なお、今回開発した技術で量産できるマイクロ化学チップは直径50mmまでの円形になる。従来のマイクロ化学チップは角形だが「ガラスモールド工法による量産はレンズなどと同様に円形の方が適している。マイクロ流体工学用の分析装置でマイクロ化学チップを使用する際には、薬液などを流すためのハウジングが必要であり、ハウジングを変更すれば円形でも問題はないという意見をマイクロ化学技研からもらっている」(鈴木氏)という。
ガラスモールド工法による量産化で、マイクロ化学チップの価格は従来の3万〜5万円から数千〜1万円まで低減できる見通し。マイクロ化学技研 専務取締役の田澤英克氏は「薬品耐性が低い樹脂製チップでは対応できないような用途に向けて展開していくことになるだろう。例えば、屋外で利用する水質検査装置向けの場合、樹脂製チップは変形などの可能性があるが、ガラス製チップであればそういった問題は起こらない。タンパク質などの単一細胞解析装置の前処理では樹脂製チップが一般的だが、低価格によりガラス製チップを選択する可能性もでてくる」と述べる。
なお、基板上に作り込む構造がnmレベルになる「ナノ化学チップ」については、ガラス製でなければ製造が難しいという。「ガラスモールド工法であれば、100n〜200nmクラスの構造も製造できる。より複雑なナノ構造であればガラスモールド工法を、ナノ構造の溝の深さを求める場合にはエッチングを用いるなど、使い分けになるのではないか」(鈴木氏)としている。
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