EMO2019では、umatiの取り組みを多くの来場者に理解してもらい広めていくことを目的として、umatiの企画展示ブースを設置していたのでその様子も紹介しておきたい(図13)。
ブース内にはumati@EMO2019への参加企業の協力を得て、実際にumati接続を実装している工作機械数台を展示していた。また、いくつかの大きなスクリーンにumatiダッシュボードの画面を映し出し、EMO2019会場内の110台の工作機械への接続が実現できていることを紹介していた。
さらに興味深い取り組みは、1日に2回ほど「meet the expert」という時間帯を設定し、umatiの規格を策定する実作業に関わっている主要メンバーから直接umatiの話を聞くことができるという企画だ。実際にその時間帯には日本を含め、多くの来場者が訪れ、umatiのエキスパートたちとディスカッションを交わしていた。フォーラム会場でもumatiのエキスパートたちは講演を実施し「umati策定の背景」「仕様の概念や詳細」「umatiを活用した実例」などを精力的に紹介していたのが印象的だった(図14)。
このようにEMO2019における大規模な接続デモンストレーションを成功させたumatiではあるが、今回のデモ接続に使われたumati仕様は2019年3月に発表された暫定版の仕様となっており、実はまだ正式リリースには至っていないのが現状である。規格の改訂は現在も進んでおり、2020年1月にumati仕様のバージョン1.0を正式にリリースするというスケジュールとなっている。
これまでumati@EMO2019の企画がどのように実施されたかを紹介してきた。「この企画はどのような成果をもたらしたのか」を、いくつかの観点から取り上げてみたい。
まずはJIMTOF2018との比較である。2018年11月に日本で開催されたJIMTOF2018では、主催者のJMTBAの旗振りで同様の接続企画が実現し、会場にある300台の工作機械をつなぎ稼働状況を監視するデモンストレーションに成功している(※)。
(※)関連記事:工作機械は“盛って”“つなげて”が当たり前に、JIMTOFプレビュー
今回のEMO2019での接続台数は110台とその数は大きく下回る。その一方で、重要視すべき点としてEMO2019での110台の工作機械はumatiという共通のインタフェース規格に沿って接続を実現したというところにある。参加した工作機械メーカーにとっては、umatiの概念や仕様の理解という点においても、通信方式や実装方法といった技術的な点においても、将来につながる経験を得たことは間違いない。これは規格の浸透という観点でとても大きな一歩といえるだろう。
一方で課題もある。今回のuamti@EMO2019でその仕様に基づき実装を行った関係者からは「今回のumati仕様では加工タスク管理や工具管理といった具体的な運用面での不足がまだまだ多くあり、このまま規格として定めても、工作機械の生産性を向上させるような効果には結び付かないのではないか」という疑念の声も上がっている。
EMO2019で大きな進展を示したumatiが、見えてきた課題を解決し工作機械の共通インタフェースとして本当に浸透していくのか。2020年1月にリリースが予定されているumati仕様のバーション1.0に期待したい。
第2回はEMO2019におけるumatiの最新情報をレポートした。第3回ではumatiの規格策定を進める組織のトップ VDWのAlexander Broos(アレクサンダー・ブルース)氏のインタビューから「umatiの将来の展望」について紹介する。
高口順一(こうぐち じゅんいち)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア
東京大学工学部を卒業後、ものづくりコンサルティングファームに入社。2005年には「金型生産工程の超短納期化の実現」にて第1回ものづくり日本大賞 経済産業大臣賞を受賞。その後、工作機械メーカーを経て、2015年にPC制御に特化したドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社に入社。ソフトウェアPLC/CNCであるTwinCATの技術を担当しその普及に努めている。
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