日立製作所は、サプライチェーンの課題を解決する「サプライチェーン最適化(SCO)サービス」の提供を開始した。調達から製造、保管、輸送、販売までのデータを使って、サイバー空間上でサプライチェーン全体をモデル化して現実世界と連動するデジタルツインを構築し、現実世界では追従困難な日々の変化に対する全体最適を実現するという。
製造業がモノづくりの効率化を果たしていく上で、解決すべき課題は工場の中だけにとどまらない。急激なグローバル経済の変化や消費者ニーズの多様化などによる需要変動への対応、過剰在庫によるコスト増大や欠品による機会損失の他、マスカスタマイゼーションへの対応による取り扱い品種の増加や短サイクル化など、サプライチェーン全体にさまざまな課題が存在している。そして、サプライチェーンそのものもグローバル化による複雑化の影響を受ける。
このような状況下で、需給バランスの調整や在庫の管理、輸送コストの検証といった、サプライチェーンの最適化作業を人手で行うことは困難だ。このため、事業競争力に直結するサプライチェーンの課題を解決すべくさまざまなツールやソフトウェア、システムが提案されている。
日立製作所は2019年10月11日、これらサプライチェーンの課題を解決する「サプライチェーン最適化(SCO:Supply Chain Optimization)サービス」の提供開始を発表した。日立クラウドを用いたSaaSサービスとなる。調達から製造、保管、輸送、販売までのデータを使って、サイバー空間上でサプライチェーン全体をモデル化して現実世界と連動するデジタルツイン※)を構築し、「現実世界では追従困難な日々の変化に対する全体最適を実現する」(日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 アプリケーションクラウドサービス事業部 アプリケーションサービス第1本部 アプリケーション第1部 主任技師の場家康雄氏)というものだ。
※)関連記事:いまさら聞けない「デジタルツイン」
従来のサプライチェーンの最適化ソリューションは、在庫管理や倉庫管理などの個別機能を中核としてサプライチェーン全体にも広げるものが多いが、日立のSCOサービスは「工場や組織、企業、プロセスの壁を越えて全体を見るものであり、そもそものスコープが異なる」(場家氏)。デジタルツインを生かして、サイバー空間上で高速シミュレーションを実施して複数のサプライチェーンモデルを評価した上で、最適なオペレーション計画を自動立案するのだ。
日立のSCOサービスで重要な役割を果たしているのが、サイバー空間で超高速にPDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルを回すことを可能にする日立独自の高速シミュレーションエンジンと、日立が手掛ける多くの事業で培ってきたSCM(サプライチェーン管理)業務のノウハウを反映した意思決定ロジックのベストプラクティスである。場家氏は「高速シミュレーションエンジンは社内の研究所で開発したもので、これを2011年から推進してきた『Hitachi Smart Transformation Project(日立スマートトランスフォーメーションプロジェクト、スマトラ)』で活用しながら、社内のサプライチェーン改革を相当なレベルまで進めた。その成果を、社外で利用できるようにしたのがこのSCOサービスだ」と説明する。
また、日立のSCOサービスの大きな特徴の1つが、計画段階と実行段階の両方で利用できることだ。サプライチェーンの最適化は、さまざまな情報を集めて分析した上で、将来の需要などに対応する計画を策定し、実施する。これは、1年、半年、数カ月に1回の頻度で行うのが一般的だ。そして、この計画に基づいてサプライチェーンの管理を行っても、日々の需要変動の影響により計画通りにはならないため、担当者による調整が必要になる。「先々の需要を想定した計画だけでなく、実行段階における日々の需要変動に即応した実行策を自動立案するので『需要の充足』と『コスト適正化』のジレンマを解決してくれる。サプライチェーンの最適化による計画立案はコンサルティング的なものになって1回限りというイメージが強いが、日立のSCOサービスは1回だけのコンサルではないし、日々の業務にも活用できる」(場家氏)という。
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