東京大学と京都大学は、人工RNAを細胞に導入することで、細胞内の複数のマイクロRNAを検知し、iPS細胞を含む異なる細胞集団を生きた状態で精密に分画すること、iPS細胞の分化過程を識別することに成功した。
東京大学は2019年8月22日、人工RNAを細胞に導入することで、細胞内の複数のマイクロRNA(miRNA)を検知し、生きたままの細胞を精密に分画することに成功したと発表した。この成果は、同大学大学院新領域創成科学研究科 助教の遠藤慧氏らと、京都大学の共同研究によるものだ。
研究グループは、これまで細胞種に特異的なmiRNAを識別する人工RNAの開発に取り組んできた。今回の研究では、それをさらに発展させて、複数種のmiRNAを同時に検知する人工mRNA(メッセンジャーRNA)を開発した。
開発したmRNAは、細胞内のmiRNAが結合すると蛍光タンパク質の発現が低下するもので、目的のmiRNAに相補的な配列を入れる5つのスロットと、情報の読み取りを始める場所「開始コドン(AUG)」で構成される。
このmRNAを用いて、人工RNAにmiRNAが結合していない場合と、miRNAが1つだけ結合している場合、複数のmiRNAが結合している場合について、蛍光タンパク質の発現量を比較した。その結果、複数のmiRNAが同時に作用する場合の活性は、それぞれのmiRNAの活性の乗算値と近い数字になることが判明した。
次に、ターゲット配列を入れるスロットの位置が、蛍光タンパク質の発現量に影響するかを調べた。実験の結果、開始コドンからの距離が長いほど、発現を抑制する度合いが小さいことが分かった。
続いて、細胞内のmiRNA活性に基づき、種類の異なる細胞やiPS細胞から分化途中の細胞を分画することを試みた。研究グループは、シミュレーションを基に4種類の人工mRNAを設計し、この人工mRNAが、それぞれが異なる組み合わせのmiRNAを検知して異なる蛍光タンパク質を発現することから、蛍光の強さの比で細胞が分画できると予測。設計した人工mRNAを各細胞に導入すると、蛍光強度の比は、細胞ごとにシミュレーションに近い値を示した。
これらの実験は、生きた細胞を用いた多変量解析の、初めての成功事例となる。さらに、この成果により、iPS細胞を含む異なる細胞集団を生きた状態で精密に分画することや、iPS細胞の分化過程を識別することも可能になった。
今後、分画の精度がさらに高まることで、精密に分画した分化細胞を再生医療に用いるなど、医療への応用が期待される。
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