パナソニックが技術開発に注力している電力線通信(PLC)の事業展開について説明。これまでHD-PLC(高速電力線通信)として推進してきたが、2019年3月のIEEE 1901aとしての国際標準化を受けて、IEEEでの呼称である「IoT PLC」に改めた上で展開を拡大する方針だ。
パナソニックは2019年8月28日、東京都内で会見を開き、同社が技術開発に注力している電力線通信(PLC)の事業展開について説明した。これまでHD-PLC(高速電力線通信)として推進してきたが、2019年3月のIEEE 1901aとしての国際標準化を受けて、IEEE(米国電気電子学会)での呼称である「IoT PLC」に改めた上で展開を拡大する方針。パナソニック社内でも、全社横断組織であるビジネスイノベーション(BI)本部が管轄することで、さらなる事業拡大を可能にする体制を整える。
同社 執行役員 BI本部 本部長の馬場渉氏は「パナソニックに入社する前に有力な技術を紹介してもらう機会があったが、その中で圧倒的だと感じたのがIoT PLCだった」と語る。馬場氏は、人間中心のくらし統合プラットフォーム「HomeX」の開発を推進しているが※)、パナソニックが掲げる新たなスローガン“くらしアップデート”の実現に集中するために、2019年4月からHomeX関連のプロジェクトの8割を入れ替えたという。その中で、HomeXのネットワークを担うのがIoT PLCだ。「100年前に、1本の電線を明かりと家電の2つの役割で使えるようにした二股ソケットから起業したパナソニックだが、電力と情報の両方を1本の線で伝えられるIoT PLCは、家電と情報を統合するデジタル時代の二股ソケットになる」(同氏)という。
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PLCそのものは2000年代前半の製品開発の後、商用展開も進められてきたが、住空間での利用はあまり広がらなかった。しかし、2015年のマルチホップ技術対応による長距離通信対応と安定化を機に、主に産業用途で採用されるようになった。実際に、無線通信ではつながりづらいエレベーターのような閉空間や、セキュリティの観点から無線通信を利用できないプラント、既設の電力線を活用したコスト削減を目的とした街灯へのIoTセンサーの設置などに用いられており「既に約300万台のPLC機器の納入実績がある」(パナソニック イノベーション推進部門 BI本部 IoT PLCプロジェクト 総括担当の荒巻道昌氏)。
馬場氏は「このPLCの実績を、満を持してくらしの空間へ実装していきたい。それによって、Wi-Fiなどだけでは難しい“くらしネットワーク”の最適化を図りたい」と述べる。同氏が、ネットワークの最適化によって、技術進化を加速させた製品として挙げたのが自動車である。1990年代後半から普及が始まった、ボッシュ(Robert Bosch)が開発した車載ネットワーク規格のCANが普及したことにより、車両内の配線コストの削減、軽量化、簡素化が可能になり、多くのECU(電子制御ユニット)が搭載されるようになった。一方で、住空間における“くらしネットワーク”は、増え続けるIoT機器や無線通信の減衰や混線などもあってWi-Fiだけで解決できる状況ではなくなりつつある。「既にある電力線を活用できるIoT PLCを組み合わせることで、くらしネットワークを最適化できるだろう」(馬場氏)という。
IoT PLCが関わるグローバルの市場ポテンシャル(TAM:Total Addressable Market)は、2025年時点で86兆円に上り、このうちくらしネットワーク関連は71兆円を占める。馬場氏は「パナソニック製品のユーザー数は世界で10億人。これらはまだネットワークにつながっていないが、今後はIoT PLCをどんどん組み込んでつながるようにしていきたい。パナソニック単体だけではなく、他社製品にもIoT PLCを組み込んでもらえるようにする」と強調する。
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