HD-PLC改めIoT PLCは大まかに分けて3つの特徴がある。1つ目は、既設の電力供給に用いているメタル線をイーサネットケーブル同様に使えることによる「導入コスト削減」だ。2つ目は「通信の確実性」で、当初のPLCで課題になっていたタコ足配線にも対応できるマルチホップ技術を採用しており、最大1000ノード、最長約2kmの通信接続が可能だ。そして3つ目は、サイバーセキュリティを含めた「高い安全性」になる。
くらしネットワークの中核にあるのはWi-Fiなどの無線通信だが、住空間の中では遮蔽(しゃへい)に弱いこともあって、通信が届かないデッドゾーンが生まれてしまう可能性がある。そこで、あらかじめ敷設されている電力線を活用できるIoT PLCを組み合わせることにより、くらしネットワークを最適化できるという寸法だ。
くらしネットワークの最適化に向けてIoT PLCの普及を目指すには幾つかの課題がある。まず、国際標準化については、2019年3月のIEEE 1901aとして承認されることでクリアした。
次に、法制度整備については、国内で2018年度から導入された新技術実証(RS:Regulatory Sandbox)制度を活用することで、IoT PLCの機器組み込みを可能とする道が開けつつある。2018年12月にRS制度の第1号認定を受けた後、2019年4〜6月にかけて実住宅内で6機種の製品にIoT PLCモジュールを組み込んでの評価を実施し、パナソニック以外の電気用品140機種で誤動作が起きないことを確認した。実験結果は既に内閣官房に提出しており、今後は電気用品調査員会 電波雑音部会でルール化に向けた審議が行われることになる。
現在、国内で市販されているPLC製品はPLCアダプターだが、これを使う場合、機器への電力供給と通信の両方を1本の線で行えるというIoT PLCのメリットは得られない。IoT PLCの採用を広げるためには、機器組み込みに関する法制度整備が必須だったが「今回のRS制度の活用によってめどが立った」(荒巻氏)。また、海外については、米国や欧州、中国は既に機器組み込みが可能な状況だという。
そして、IoT PLCの市場拡大に向けては、パートナー連携を強化して行く方針だ。HD-PLCアライアンスで16社、IoT PLCのIPをライセンスしている半導体メーカーが7社、実証実験などで連携している企業が100社以上、国際標準化で連携している企業が5社ある。今後は、この社数をさらに増やして行く考えだ。馬場氏は「規格の普及という観点では、VHSやSDメモリカードなどの普及で培ったDNAがパナソニックにはある。これまで1つの事業部内で手掛けていたIoT PLCが、全社横断組織のBI本部の管轄になったのは、規格普及に向けて本腰を入れることを決めたということだ」と説明する。
なお、HomeXに関するさまざまな実証実験を行っている米国シリコンバレーの「β House」でも、2019年6月末からIoT PLCを機器に組み込むことによる価値を確かめるための取り組みを始めている。「β House内の通信はWi-Fiでつなげており、そこからIoT PLCを機器に組み込むことによってどのような価値が得られるかを確認している。B2B向けとなる施工業者にとっての価値、B2C向けとなる一般ユーザーにとっての価値、両方でだ」(馬場氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.