「FOOMA JAPAN 2019 国際食品工業展」(2019年7月9〜12日、東京ビッグサイト)で「グローバルフードバリューチェーン戦略とこれを支える最先端技術」をテーマにしたシンポジウムが開かれ、日本総合研究所創発戦略センター エクスパートの三輪泰史氏が「我が国のグローバルフードバリューチェーン戦略」と題した講演を行った。
「FOOMA JAPAN 2019 国際食品工業展」(2019年7月9〜12日、東京ビッグサイト)で「グローバルフードバリューチェーン戦略とこれを支える最先端技術」をテーマにしたシンポジウムが開かれ、日本総合研究所 創発戦略センター エクスパートの三輪泰史氏が「我が国のグローバルフードバリューチェーン戦略」と題した講演を行った。
日本の農業の衰退傾向は止まらない状況だ。農業産出額は1984年の11兆7000億円をピークとし、2001年以降は8兆円台で推移するなど、厳しい状況が続いている。ここ3年間は回復傾向にあるが、今後の人口減少を踏まえると国内マーケットは縮小するのはほぼ間違いない。また農業自体の収益性が低く、もうけが少ないことから、新たな人材や資金を呼び込む魅力にも乏しい状態だ。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)などの自由貿易化への圧力もあり、日本の農業は新たな成長源泉を探す必要に迫られている。
一方で世界の状況を見ると新興国の急激な経済成長に伴い、富裕層市場が出現し、特に従来は安価な生産基地と位置付けられていた中国、ASEANなどが現在は重要度の高い市場へと成長した。これら新興国の富裕層の購買力を取り込むため、日本でも多くの産業が事業展開を進めている。農業分野でも2014年に農林水産省を中心にグローバルフードバリューチェーン戦略が策定され、積極的なグローバル展開を進める動きが出てきている。
新興国での消費動向は経済成長に伴い、そのニーズは「量的充足」(第1段階)、「安心・安全」(第2段階)を経て、現在は「新鮮」(第3段階)へと段階が進んでいるという。日本や欧米の食に対するニーズの変遷を踏まえると「食味」(第4段階)そして近い将来には「高機能、その他(健康志向や手軽さなど)」(第5段階)へと変化するものと予想される。日本の農業の海外展開の策定においては、現在のニーズではなく、より高次の「食味」に特徴のあるものをターゲットに設定することが重要だ。
日本の農産物輸出額は順調に増加し、2018年には過去最高となる9000億円以上の輸出額を記録した。2019年には1兆円達成(2020年の目標を1年前倒して)を目指している。主な輸出先はアジア諸国で香港や台湾が上位だ。中国向けも輸出金額は大きいが、生鮮品については厳しい規制があり、米やリンゴなどの商品に限られている。現在の1兆円という規模はアジアの一部の国によるものであるため、将来的には米国や欧州市場を拡大できれば日本が目標とする2030年に5兆円という出荷額も視野に入ってくる。
日本産農林水産物・食品の輸出形式を大別すると、輸出事業者が国内生産者から商品を取りまとめて輸出するものと、それぞれの生産者名義でフォワーダー(貨物利用運送事業者)を利用して輸出をする2つの方法がみられる。輸出業者とフォワーダーでは、国内の商・物流で違いがある。例えば、受注の入り方や商品の集荷方式などに違いがあり、輸出先では、税関の通過や輸入業者、ディストリビューターとの取引の仕組みが異なってくる。
また、輸出を行う際にはジャパンブランドと地域ブランドの使い分けが必要となる。地域ブランドか価値を発揮するには世界的な知名度や品質の良さが客観的に認められた場合に限定される。例えば、「松坂牛」「神戸牛」「青森りんご」「京野菜」などである。輸出促進のためには、まずはジャパンブランドとして統一感を打ち出すとともに「日本の農水産物を安定的に供給することで日本産コーナーを設けてもらうことが重要である」と三輪氏は述べる。
こうした日本産コーナーを設置した場合でも「従来は日本の異なる産地のイチゴ同士で競争したり、イチゴの時期が過ぎると別の商品を提供できなくなったりすることがあった。現地の小売店で日本産コーナーを設置してもらうには、時期ごとに差がなくシームレスに提供することが必要だ。そうしないと成り立たなくなる」と三輪氏は現状の取り組みの問題点を指摘する。
さらに「各地域が連携して対応し、日本ブランドの知名度を獲得してから、随時地域ブランドとして独り立ちしていくというシナリオが効果的だ」とブランディングの手順について述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.