これら成長著しい農業輸出市場だが「日本の農業の発展のためには日本で生産した農産物を輸出する方法と、海外に進出して現地で生産する方法の2つがある」と三輪氏は述べる。農産物輸出の利点は、日本で作るため高品質、直営で適切な管理ができ、さらに産地の雇用確保、産業振興につながるという点がある。しかし、デメリットとしては、生産量に限界があり、輸送や関税などによるコスト高が発生する。そのため「日本で作ることだけにこだわりすぎた戦略では一部の限られた農産物以外では、チャンスを逃すことになる」と三輪氏は問題点を指摘する。
そこで、日本の優れた農業技術を生かし、海外で付加価値の高い農産物を現地生産、現地販売する「日本式農業モデル」が輸出拡大と合わせて提唱されている。現地農業企業に栽培ライセンスを付与し、技術やノウハウを提供することで日本産に近い付加価値の高い農産物を生産することが可能となる。
「日本式農業モデル」については、ノウハウ移転を軸とした知的財産ビジネスと位置付けられる。日本の農業生産者や農業企業は現地の農家や農業企業に対して技術移転とライセンス付与を行い、その対価とし移転先の現地企業からロイヤリティーを得るという仕組みだ。技術やノウハウを生かした知的財産ビジネスとすることで、農業法人や農業企業の資金、人材、農地などのリソース面での制約に縛られず、迅速で大規模な農業事業を立ち上げることができる。
日本式農業により生産される日本式農産物は、優れた品質や安全性に加え、「Made with Japan」という付加価値を得ることができる。ブランド商品として、富裕層、上位中間層マーケットを中心に販売できることが期待される。基本的に日本への逆輸入は想定しておらず、日本から輸出する日本産農産物と現地で生産する日本式農産物は競合関係ではなく補完関係にあるとしている。
日本式農産物が価値を発揮するには生産のレベルアップだけでは不十分となる。「価値を維持する流通」「価値を表現する小売り・外食を巻き込んだ生産から消費までのバリューチェーン」を構築することが必要となる。日本式農業バリューチェーンの立ち上げ初期には、高付加価値農産物に対する共通認識のある日系企業間での構築が効果的だ。バリューチェーンの仕組みが固まった段階で、価値の縮小がないように留意しつつ、外資系企業や現地系企業への拡大する戦略が想定される。
これらの「日本式農業モデル」によるビジネスへの関心が高まる中、海外での現地生産、現地販売に関心を持つ日本企業が増えている。一方、海外で事業展開するためにはさまざまなリスクが発生し、そのために二の足を踏むケースも多い。主なリスクとして、技術流出リスク、商標リスク、法制度リスクなどがある。特に関心が高いのは技術流出リスクへの対処法で、これまでも中国などでブランド種子の無断持ち込みや、栽培装置の違法な模倣などが問題になったという。これらのリスクに対して、過剰反応するのではなくリスクを具体的に分析し、適切な対応策を取ることが重要となる。
日本式農業ビジネスの切り札としては、スマート農業が注目されている。技術革新が目覚ましいスマート農業技術は、匠の農家の「眼」を農業用ドローン、農機搭載センサー、ロボット搭載センサーなどに、「頭脳」をAI、ビッグデータ解析などに、「手」を自動運転農機、農業ロボットなどに置き換えることを目指す。これらを代替したり、支援したりすることで、効率化と付加価値向上を両立させられる。これらにより、農業の競争力向上につなげていく方針である。
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