デジタル変革で何ができるか、医療現場の革新を目指すオリンパスのビジョンと苦労MONOist IoT Forum 福岡2019(後編)(2/3 ページ)

» 2019年07月16日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

「ものづくり白書2019」に見る“失われた平成”

 経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 の住田氏による特別講演では、2019年6月11日閣議決定されたばかりの「2019年版ものづくり白書」の内容について解説した。「ものづくり白書」とは、「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成している。

photo 経済産業省 製造産業局 ものづくり政策審議室 課長補佐である住田光世氏

 「2019年版ものづくり白書」は令和最初のものづくり白書ということで「平成の製造業の変遷」を振り返ったことが特徴となる。平成の30年間は「失われた30年」とされ、特に日本の製造業にとっては衰退の時代だったと捉えられている。ただ、「厳しい時代だったことは確かだが、客観的に世界と比べて見る必要がある。客観的指標で世界との比較を行ったことが今回の特徴だ」と住田氏は述べる。

 平成の製造業を振り返ってみると「バブル崩壊やリーマンショック、そして度重なる自然災害と、多くの荒波を越えてきた。これらの波に飲まれて業況もさまざまな変化に巻き込まれてきたといえる。こうした中で国内のGDPに占める製造業の割合も徐々に落ちてきた。1989年には26.5%の比率があったのに対し、2009年には19.1%となり、20%を割り込んだ。ただ2017年には20.7%となるなど、盛り返してきているという状況だ。そして20%という比率は依然として高い比率であり、日本経済を下支えし続けている存在だといえる」と住田氏は語る。

 こうした変化の中で、厳しくなってきた製品の1つに「半導体メモリ」がある。半導体メモリは日本企業が圧倒的なシェアを握っていたが、現在ではNAND型フラッシュメモリのシェアはあるものの、DRAMの世界シェアはほぼゼロまで低迷している。ただ、これらの半導体メモリなどの領域についても構成する部素材の領域では引き続き高いシェアを維持している。「『半導体は負けた』などとよくいわれるが、シリコンウエハやフォトレジスト、半導体封止材料などの部素材では高シェアを維持している。こうした強みと弱みを客観視して日本産業の強みと弱みを見ていく必要がある」と住田氏は述べている。

photo 日系企業の世界市場規模と世界シェア(クリックで拡大)出典:ものづくり白書2019年

 また、米国、ドイツ、中国の主要な製造立国における企業と比べ、自社の優位性がどこにあるかを調査した結果、日本の製造業では「生産自動化や省力化」「商品企画力やマーケティング力」において、ドイツ企業や米国企業に劣っていると認識しているという結果となった。一方で、「製品の品質」や「現場の課題発見力・問題解決力」「技術開発力」については優位にあると認識しているという。

 住田氏は「実際に競争力があるかどうかは分からないが日本企業の認識として品質や現場力、技術力は優位であると認識されている。これらの強みを生かしつつ、弱みとされている領域をカバーしていくことが重要である」と語る。

photo 各国企業と比べた際の優位性のチャート図。日本企業の認識として外側にポイントがあればあるほど「自社が優位にある」と認識しているということになる。一方で中央にポイントが近いほど「自社が劣っている」という認識を示している(クリックで拡大)出典:ものづくり白書2019年

第4次産業革命の進展と製造現場のデータ活用

 さらに現在の日本のモノづくりを取り巻く環境として「第4次産業革命の進展」と「グローバル化の展開と保護主義の高まり」「ソーシャルビジネスの加速」という3つの潮流があると位置付けている。

 「IoTなどの技術革新をきっかけとしMaaS(Mobility as a Service)など製造業の範囲を超える新たな顧客価値提供の動きが広がりを見せている。ITと製造業を組み合わせたビジネスモデルなども登場し、既存の製造業からも新たな市場に参入する動きが広がりを見せている」と住田氏は傾向について述べる。

 これらの動きを示すものとして製造業の業務内でのデータ収集が挙げられる。ものづくり白書では毎年、企業へのアンケート調査を実施しデータ活用への取り組みの変化を探ってきた。「製造工程のデータ収集に取り組んでいるか」「データを実際に役立てているか」「収集したデータを製造工程などのプロセス改善や顧客とのやりとりなどに役立てているか」などの質問を用意している。

 ただ2019年版の調査で意外な結果となったのが「工程内のデータ収集」を行う回答者の比率が減少した点である。2016年度の調査では「製造工程のデータ収集に取り組んでいる」とした回答は66.6%、2017年度の調査では67.6%と順調に増加したが、2018年度は58.0%と減少する結果となっている。

 一方で「個別工程の機械の稼働状態について見える化を行い、改善などに取り組む」に対し「実施している」とする回答の割合は2016年〜2018年度まで右肩上がりで増加している。さらに「ラインもしくは製造工程全般の機械の稼働状況について『見える化』を行い、改善などに取り組む」に対し「実施している」とする回答も増加している。

photo 日系企業の世界市場規模と世界シェア(クリックで拡大)出典:ものづくり白書2019年

 「順調に増加することを想定していたが、データ収集をしている企業の割合が減ったのは予想外だった。ただ、工程内でのデータ活用を行う企業の割合が増加していることを合わせて考えると、ブームによりやみくもにデータ収集に着手してきた企業が一段落し、具体的な活用方法に対してデータを収集するという流れに変わってきたということだとも考えられる」と住田氏は考察する。

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