PTC主催の年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2019」では、AR(拡張現実)技術の業務適用に関する発表が目立った。AR製品担当であるマイク・キャンベル氏のコメントを交え、同社が強化するAR事業の取り組みについて紹介する。
PTCの年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2019」(会期:現地時間2019年6月10〜13日/会場:Boston Convention&Exhibition Center)の中で、同社が特に多くのメッセージを発信していたのがAR(Augmented Reality :拡張現実)技術の業務適用である。
同社 社長 兼 最高経営責任者(CEO)のジェームズ・E・ヘプルマン(James E. Heppelmann)氏の基調講演でも、モノづくりにおけるバリューチェーンの中で同社のARソリューション「Vuforia」がどのような価値をもたらすのかを訴え、デジタルとフィジカルの世界を結び、人間の能力を拡張させる存在としてその重要性を説いていた(関連記事:高度なデジタルツインを実現し、顧客企業のデジタル変革を加速させるPTC)。
近年、同社におけるAR事業の成長は著しく、売り上げの30%程度をIoT(モノのインターネット)および ARが占め、非常に高い成長率でビジネスをけん引しているという。実際、AR事業に関連する買収や技術開発への投資にも意欲的で、産業分野におけるARソリューションのリーディングカンパニーとしての地位を確立しようとしている。
会期中にはAR事業をさらに加速させる取り組みとして、いくつかのアナウンスがあった。その中で注目したいのは、AR関連技術を有するオランダのTWNKLSの買収、そしてARアプリケーションの開発ツール「Vuforia Engine(旧:Vuforia SDK)」の機能強化である。
今回、同社 AR製品担当 エグゼクティブバイスプレジデントのマイク・キャンベル(Mike Campbell)氏に話を聞くことができたので、以下、同氏のコメントや関係者からの情報を基にその狙いを紹介する。
TWNKLSはこれまで10年以上の間、AR関連の事業を展開しており、さまざまな顧客との協業において多くの成功を収めてきたという。代表的な企業として、例えばIKEA(イケア)やLamborghini(ランボルギーニ)などが挙げられる。IKEAでは製品カタログに同社のAR技術を活用、Lamborghiniは従業員のトレーニングを目的に同社の技術を採用しているという。
「TWNKLSの買収はPTCのAR事業を加速させるものだ。25〜30人ほどのTWNKLSのメンバーがPTCに加わることで、顧客や市場に対し、AR活用の価値創出までの時間を大幅に短縮できるようになる」(キャンベル氏)。今後、TWNKLSの技術とVuforia Engineを活用し、価値発揮につながる可能性のあるユースケースに対してソリューション提供を行っていくことになるとみられる。
ARの業務適用において重要となるのが、どのユースケースでその価値を最大化できるかである。例えば、熟練者の技能や作業をデジタル化し、技術伝承およびトレーニングなどに活用する「Vuforia Expert Capture(旧:Waypoint)」がその代表的なアプリケーションとして挙げられるが、実際に(分科会で事例発表のあった)GLOBALFOUNDRIESでは装置のメンテナンスやトレーニング、ドキュメント作成にVuforia Expert Captureを活用し、一定の効果を上げているという。
キャンベル氏は「Vuforia Expert Captureのように、今後も特定のユースケースに適したアプリケーションを提供していきたい」と述べており、その展開イメージとしてサービスや設計レビューなどのユースケースを挙げる。
TWNKLSの技術が今後どのような形でVuforiaに組み込まれ、どのようなユースケースに対してその価値を発揮していくのか注目したい。
もう1つのトピックは、ARアプリケーションの開発ツールであるVuforia Engineの機能強化だ。
今回発表された「Vuforia Engine 8.3」では、AI(人工知能)を用いることでAR空間越しの物体認識を強化している。これまではある特定の位置からでしか物体を認識し、それにひも付くコンテンツをAR空間上に呼び出すことができなかった。しかし、今回のVuforia Engine 8.3ではどの角度からでも、どの部分からでもAIが物体を認識できるようになり、使い勝手が大幅に向上しているという。
ちなみに、へプルマン氏の基調講演の中でもARを用いたエンジンの組み付け検査のユースケースが紹介されたが、そのデモの中でも今回の技術が披露されていた。
「PTCは顧客の価値創出においてARを活用してもらいたいと考えている。そのために技術開発にも力を入れている。そこには機能の強化だけではなく、煩雑な操作をなくし、どのような環境でも動作するといった使い勝手の向上も含まれる。対象物をどのような角度からでも認識し、すぐにAR体験ができるという今回の強化もそうした考えに基づいたものだ」(キャンベル氏)。
なお、キャンベル氏によると、2019年中にはVuforia Engine 8.3を用いたアプリケーション開発が可能になり、ARプラットフォーム「Vuforia Studio」で利用できるようになるという。
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