この先、いくら現場にAI(人工知能)やロボットが普及しようとも、それは単純作業をミスなく安全に効率的に処理する道具でしかないので、最終的には人間が関わります。だから結局この先も、人間によって引き起こされるポカミスは避けられないわけです。それを踏まえて、能力の個人差によることなく一律に処理できるような仕組みを作りつつ、発生を最小限にしていくことがポカヨケの基本的な考え方になります。
先に示したポカヨケの3つの区分に、6つのポカミスのタイプを当てはめてみました。
「省人化によるポカヨケ」とは、メカによる作業支援です。人間に代わって作業を自動化することはもちろん、作業者にミスを気付かせる仕組みもここに含みます。これが有効なポカミスのタイプは、「1.うっかりミス」や「2.疲労ミス」です。例えば、ワークをセットするとき、不注意で逆方向にセットしようとすると、ピンが当たって邪魔をしてセットできないようにする治具や、製造過程で工程を飛ばしてしまったなどの異常を検知してアラームを発するとか、機械が自動的に止まるような仕組みです。
「マニュアル化によるポカヨケ」では、作業手順を構築するとともに、その内容を具体的に明文化し、さらに実行していきます。そうすると、どのポイントでミスが起きやすいかが見えてきます。その発生要因を分析して、それが環境によるものであれば現場環境を改善しながら、よりミスが起きにくいように、チェックポイントを強調した作業手順に作り変えてそれを標準化して運用していくというものです。
そして「自律化によるポカヨケ」です。この「自律」こそが、ポカヨケの概念を包括するキーワードだと言えます。ポカミスは作業者が起こすものですが、それが根本的に解消されない一番の原因は、現場の環境と体質にあるのかもしれません。
ここまでで述べたように、ポカミスはその場限りとか小手先の対策とかでは根絶できませんし、AIやロボットに頼ったところで発生を防げる確率は100%にはなりません。だからこそ、発生したら再発させない仕組みを作ってそれを積み上げていくことが大切で、そのためには経営層と管理者層の考え方を中心とする現場の体質改善と、全員の行動の体系化が必要になります。それが全ての土台です。
ポカミスの発生リスクを負う作業者は最もポカヨケのアイデアをひらめきやすいと思えるんですが、積極的な改善提案が湯水のごとく湧いて出てくるような現場と、そうでない現場があります。後者にはそういう習慣と環境がその現場に無いから、改善について深く考えないし提案しようとは思わないのです。だからてんでバラバラな行動でポカミスを起こしたり繰り返すのです。
製造現場の新人教育では真っ先に安全衛生教育を受けたことを思い出しました。「ここにはこんな危険が隠れている」「ここに物を置くな。事故になるぞ」と、事故を予測するトレーニングもたくさん受けました。ポカヨケの考え方も同じです。何が原因でどのようなミスが想定されるのかを、作業者と管理者とが自由に議論する機会を設けることで、改善提案をしやすくなるはずです。
モノづくりの現場で「自律」を意識した行動をすることと、それをしやすい環境を作ることは、ポカミスや事故を出さないだけではなく、現場の資質を上げて発注者の信用を得ることに直結します。規模の大小にかかわらず、できる工夫から始めてみてください。
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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