バイオ燃料の安定大量生産へ、デンソーとユーグレナが微細藻類を持ち寄るエコカー技術

ユーグレナとデンソーは2019年2月20日、東京都内で会見を開き、微細藻類に関するさまざまな事業の実用化に向けて、包括的な業務提携を結ぶことで基本合意したと発表した。提携を通して、バイオ燃料や微細藻類の培養技術の開発、食品や化粧品などへの藻類の応用、微細藻類による物質生産に協力して取り組む。

» 2019年02月22日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
写真左からユーグレナの出雲充氏とデンソー 専務役員の伊藤正彦氏(クリックして拡大)

 ユーグレナとデンソーは2019年2月20日、東京都内で会見を開き、微細藻類に関するさまざまな事業の実用化に向けて、包括的な業務提携を結ぶことで基本合意したと発表した。提携を通して、バイオ燃料や微細藻類の培養技術の開発、食品や化粧品などへの藻類の応用、微細藻類による物質生産に協力して取り組む。

 両社はそれぞれ違ったアプローチで異なる性質の微細藻類を扱っている。原料である微細藻類の培養から原油の抽出、精製、販売や利用まで、両社でノウハウと技術を補完しあうことを狙う。ユーグレナは多様な微細藻類を安定して培養することにより、バイオ燃料の大量生産につなげる。デンソーはユーグレナの品質保証体制や商品開発を利用し、食品向けでの微細藻類の活用を進める。

 ユーグレナは、2005年から機能性食品や化粧品で微細藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用しており、現在は微細藻類由来のバイオ燃料の開発を推進している。2020年にバイオジェット燃料やバイオディーゼルを陸海空の移動体に導入することを目標とし、いすゞ自動車やANAホールディングスがバイオ燃料の採用を表明している。こうした計画に向けて、2018年10月にはバイオ燃料の製造実証プラントを横浜市鶴見区に完成させた。2019年末から本格稼働するという。

原料の微細藻類が違っても、同じ品質のバイオ燃料を精製できるという(クリックして拡大)

 一方で、バイオ燃料を産業化するには幾つかの課題があった。1つはバイオ燃料の原料多様化だ。現在、ユーグレナは廃棄された食用油とミドリムシを原料として扱っている。それぞれの原料のメリットとして、ミドリムシは面積当たりの収穫油量が多く、廃棄食用油はリサイクルにつながるという点がある。しかし、ミドリムシは気象条件によって収穫量が影響を受け、食用油は廃棄される量に限りがあることから、原料としての安定調達が難しい。そこで、ユーグレナはミドリムシと異なる条件で培養されているデンソーの微細藻類を原料の1つに取り入れることにより、原料の多様化を図り、バイオ燃料の安定供給につなげる。

 バイオ燃料の産業化に向けたもう1つの課題は、バイオ燃料の大量生産だ。2025年に年間25万l(リットル)のバイオ燃料の生産を目標とするが、そのためには微細藻類の大量培養が不可欠になる。ユーグレナ 代表取締役社長の出雲充氏は「農学的な知見を生かして、100gを100tに増やすことはできた。しかしエネルギー産業として考えると、1万tや10万tという単位で培養しなければならない。この領域は農学としては限界だ」と語った。

 何万tという水準に培養量を引き上げる上で、デンソーが自動車部品の大量生産で培った管理や改善のノウハウなど、工学的な知見を取り入れたいという狙いがある。また、出雲氏はデンソーとユーグレナの微細藻類培養の違いについて、「われわれは天気のいい日にどうやって大量培養するかを考えてきたが、デンソーは大量培養する環境づくりや、曇りの日でもいかに藻を育てるかという点に注力してきた」と説明した。こうした取り組みの違いも提携に生かす。

デンソーの藻の強み

食品としての機能性成分は微細藻類の種類によって大きく異なる(クリックして拡大)

 デンソーの微細藻類の研究は、2008年から始まった。2010年に愛知県の善明工場の室内において、工場から排出されるCO2を使った培養実証を開始。2016年からは熊本県天草市の廃校跡地を利用し、面積2haの施設を設けて屋外での大規模培養の実証を行っている。研究で得られた微細藻類は、保湿クリームやダカールラリーの参戦車両向け燃料で活用されている。

 デンソーからユーグレナに提供するのは、コッコミクサKJ藻(旧名:シュードコリシスチス)だ。増殖が速く、オイルを蓄積する能力が高いのが特徴となる。デンソーは大学などと協力し、コッコミクサKJ藻の生産性向上や機能性成分の究明に取り組んできた。生産面では、遺伝子の改良により、オイル蓄積能力を1.7倍に高めた。また、天草市の培養施設では、藻の濃度や水温、日射量を制御することにより、培養量を1年で3倍に増やした。

 コッコミクサKJ藻の機能性成分は食品で強みを発揮しそうだ。マウスを使った実験では、コッコミクサKJ藻の摂取によりインフルエンザウイルスやノロウイルス、ヘルペスウイルスに対する抵抗力が摂取しない場合と比べて2.5倍に向上できることを確認した。また、コッコミクサKJ藻の摂取により、腸管内のノロウイルス増加量を70%減らせることも確かめた。ミドリムシは食品としては栄養補助機能に強みを持つため、ユーグレナはデンソーとの提携により、異なる機能性成分を持つ微細藻類を食品に展開したい考えだ。また、デンソーは単独で食品に参入して流通させるのは難しいため、ユーグレナのノウハウを活用する。

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