特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

モノづくりだけでは勝てない、必須になるプラットフォームとネットワーク効果製造業IoT(1/2 ページ)

「第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)」において「超スマート社会におけるオープン&クローズ 戦略、知財マネジメント」をテーマとした特別シンポジウムが開催され、東京大学 政策ビジョン研究センター 客員研究員シニア・リサーチャーの小川紘一氏が「オープン&クローズの戦略思想を必要とするIoT経済環境の到来」と題し講演を行った。

» 2019年02月18日 11時00分 公開
[長町基MONOist]

 「第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)」(2019年1月30日〜2月1日、東京ビッグサイト)において「超スマート社会におけるオープン&クローズ 戦略、知財マネジメント」をテーマとした特別シンポジウムが開催され、東京大学 政策ビジョン研究センター 客員研究員シニア・リサーチャーの小川紘一氏が「オープン&クローズの戦略思想を必要とするIoT経済環境の到来」と題し講演を行った。

100年に1度のパラダイムチェンジ

 近年の歴史を経済面からみると、18世紀末に英国を中心に第1次経済革命が起こり、知的財産権の定着、効率的な経済組織の広がりが進んだ。また、蒸気機関の発明は経験(職人技)の産業化につながった。さらに19世紀末にはドイツ、米国そして遅れて日本で第2次経済革命が発生し、知的財産権を守る制度が広がり、自然法則の活用による新技術が生まれた(自然法則の産業化)。オームの法則、アンペアの法則など、科学者が発見した自然法則により電機、化学、薬品などの各産業が進展した。

photo 東京大学 政策ビジョン研究センター 客員研究員シニア・リサーチャーの小川紘一氏

 そして、20世紀末からの第3次経済革命は全世界で起こり、ソフトウェアやデジタル技術で価値が作られる、人工的な論理体系の産業化が進み、「モノづくりやモノ売りからサービスへ」という概念が出てきた。「このデジタル技術、ソフトウェアは自然が作った法則ではなく、人間が作り出したものであり、この違いは相当大きい。これを理解しないと現在起きていることの意味が分からない」として、小川氏は現在、起こっている100年に1度というべき経済革命(パラダイムチェンジ)を説明した。

 この変革により、グローバル市場はビジネスエコシステム型に転換し、さまざまな企業や技術が価値を持ってつながることになった。価値形成の場はモノやアセットがあるフィジカル空間からCPS(サイバーフィジカルシステム)へとシフトする。フィジカル空間とサイバー空間とをつなぐデータが価値形成し、市場構造や競争ルールもこのデータ基盤を握る側が、有利なように設計することが可能となった。

企業におけるビジネスエコシステム変革の危機

 こうした時代の変化に気が付かないと、企業としては厳しい状況に陥る。「この現象で最初に大きな影響を受けたのはIBMだ」(小川氏)という。1988年あたりから同社には経営危機が訪れ、1994年にかけて大量の人材をレイオフするなど、世界最高レベルのR&D能力をもつ巨大企業は厳しい環境に置かれた。同じような経営機器はその10年後に欧州や日本の多くの企業でも発生している。

 IoT(モノのインターネット)の時代では、こうしたビジネスエコステムの構造がサイバー空間で世界の隅々にまで広がったことで、競争のルールが変わり、さまざまな産業領域でゲームチェンジが起こっている。日本の電機産業で見てみると液晶ディスプレイパネル、二次電池、DVDプレーヤー、太陽電池などのメーカーが同じような経営環境に遭遇している。

 この内、液晶ディスプレイパネルのケースを知財マネジメントの観点からみてみると、日本企業は特許をたくさん持ち、フロントランナーとして走っていた。一方で、キャッチアップしてきた企業の特許や技術の調達費は、最大でも5%にすぎない。逆に言うと数万件の特許を保有していても、わずか数%のコストダウンにしかならないわけだ。さらにキャッチアップ企業に対しても5%程度の影響力しか行使できていないということになる。「分業化やエコシステム化が進むと、これらの現象が起こることになる」と小川氏は強調する。

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