製品を売るだけでは「昭和の考え」、パラダイムシフトにどう立ち向かうか製造業IoT(2/2 ページ)

» 2019年02月15日 11時00分 公開
[長町基MONOist]
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際立つ日本と欧米の差

 こうした時代の中で、この先、産業競争力はどうすれば強化されるのか。妹尾氏は「日本の議論と欧米の勝ち組の議論はまったく違っている」という。

 日本は強みであるモノづくりをさらに徹底し、品質を向上させ、コストを下げれば勝てるとみている。一方、欧米では「そんなことは新興国に任せればいい」(妹尾氏)と考えているという。

 例えば、ロボットでみるとキーとなるのは操縦機であり、制御系のシステムを構成する組み込みソフトと半導体が最も重要になる。その結果、アプリケーションを通じて全てのデータが集まる。これがビッグデータ(BD)だ。BDはAIアナリティクスにつながり、その結果、サービスビジネスが動くことになる。「産業は循環構造になる。すなわち産業は生態系化する」(妹尾氏)。その時には、ロボット(アクチュエータ)、IoT(センサー)、AI (コンピュータ)を別々のものとするのではなく三位一体に取り組むことが重要だとする。

 特に、CPSの中核概念である「デジタルツイン」に注目する必要があるという。これにより2つの出来事が起こる。1つは「Productivity SolutionからPredictivity Solutionsへ」と基礎概念が変わり、あらゆる産業で「Predictivity」(予測性、予言性)が価値化する。

 「例えばエンジンは故障をしてから修理するのではなく、故障の予兆をどれだけつかめるかということが価値を持つ」(妹尾氏)というわけだ。これは、機械だけでなく人間の身体なども同様である。各種のセンサーによる計測でヘルスケアなどにも用いられるなど、あらゆる産業で生きてくる。ただし、あまり行き過ぎると、忖度やリスクを極度に回避することにもつながり、この点は考慮する必要がある。

 2つ目は「マスカスタマイゼーション」である。これもあらゆる産業で価値化するとみている。例えば、サイバー上のデザイン、フィジカルの採寸などファッションの世界で、この現象が起こっている。

 こうした観点から「CPSの本格化のカギは『AND化』にある」と妹尾氏は語る。「これまでは『デジタル or アナログ』『リアル or バーチャル』と2つの構造で見ていたが、今後は『デジタル and アナログ』というようにANDから始まると考えていい」(妹尾氏)とする。この他、音楽、スポーツ、ホスピタリティなどの産業は多様なテクノロジーのプラットフォームになっていると付け加えた。

SDGsがビジネスに直結する時代に

 続いて、制度に関しては、日本は非常に厳しい状況に置かれていることを強調した。この主因はSDGsにあるという。SDGsは「貧困をなくす」「エネルギーをクリーンに」「ジェンダーの平等」「人々に保健と福祉を」など国連が採択した17の持続可能な開発目標を掲げる。これらをビジネスチャンスとして捉えることもできるが、日本にとっては、逆風となる可能性もある。

 現在、欧州の企業はSDGsへの対応は積極的で、一方日本企業はSDGsのレポートなどを発行している企業はまだまだ少ない。

 さらに妹尾氏は、欧州のグローバルブランド企業が、日本のカバンメーカーを訪れた時の話を紹介した。「グローバルブランド企業が契約更改に来た時に、そのカバンメーカーは技術力をアピールするために、新しい製造設備や人材教育などを話そうと待ち構えた。しかし、先方が最初に聞いたのは『下水はどこに捨てている』だった。また、『CO2排出の対策は』なども尋ねられた。その答えを準備していなかったメーカーは大慌てで対応した。そして、最後に『子供は働かせていないな』『残業代は支払っているか。その証拠となるものを見せて』ともいわれた。これらは全てSDGsに関連した話であり、これができていなければ、サプライチェーンから外すという内容だった」という。これらのように、既にSDGsは大企業だけの話ではなくなっている。

 さらに、妹尾氏はストローなどの使い捨てプラスチック製品の禁止なども世界的に広がってきている点、ダイヤモンドの採掘に子供を不当に働かかせていないことを表明する点など、あらゆるところで影響が出ていることも付け加えた。そしてこれらは、国際標準化され、認証、認定ビジネスにつながる。SDGsを「高い理想ですね」などと話しているだけでは、日本の企業はとんでもない目に合いそうだ。

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