打ち合わせや会議に飛び入り参加推奨、コミュニケーションを活発にするにはイノベーションのレシピ(2/2 ページ)

» 2019年02月15日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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誰が何を話し合っているか見えるフロア

誰もが見られる場所に、社内SNSの投稿を表示した大型タッチパネルがある(クリックして拡大)

 FFR部は、本人の希望や上長の判断を基にさまざまな部署から人員が集められている。これまで在籍していた事業部や、専門分野も異なる。そのため、ロッカーに貼られた自己紹介のステッカーや、社内SNSの投稿を基に、拠点内で交流を持つことが奨励されている。

 社内SNSは仕事に関することばかりでなく、日常生活の中のちょっとした話題なども投稿される。展示会が開催されている期間は、展示会の様子を社内SNSに実況する人もいる。既存のSNSと違うのは、“友達”になっている以外の人とも接点を持てることだという。

 東刈谷イノベーションセンターのオフィス内は、ディスカッション用、プロジェクト推進用などのようにエリアが区切られているが、壁によって仕切られたスペースや会議室などは設けられていない。作業に集中したり、遠隔地とテレビ会議を行ったりするための1人用のブースがあるのみだ。

 ディスカッション用のエリアでは、それぞれのグループが壁のホワイトボードやイーゼルに立てかけたパネルに図や言葉を書き並べながら議論している。どのグループが何の話をしているのか、通りがかった社員がのぞき見ることができる環境だ。文房具などの備品置き場や、コピー機、コーヒーサーバーなどを集約し、日常的に人が集まりやすくしたエリアも設けられている。この時、ただ話し合いの様子をのぞき見るだけでなく、内容を見て話し合いに飛び入りで参加したり、自分の仕事に対して意見を求めたりすることが推奨されている。

拠点のメンバーは会議室にこもらず、誰からも見える場所で各自打ち合わせや議論を行っている(クリックして拡大)
誰が何を話しているか見えることで、議論への飛び入り参加も歓迎されている(左、中央)。個人ロッカーには自己紹介のステッカーが貼られている(右)(クリックして拡大)

 「今日はこの議題以外話さない、時間も30分だけ……という風に会議をやっているのではない。近くにいる人を集めて急に話し合いを始めることもある。また、飛び入り参加で話が広がることが嫌いじゃない人たちが集められているので、会議を邪魔されたという感覚もない。オフィスに来た当初こそ、会議室がないことに戸惑ったが、1日もあれば慣れた人が多かった」(東刈谷イノベーションセンターの社員)

試作用の3Dプリンタ(クリックして拡大)

 ファブラボエリアでは、3Dプリンタによる試作が可能だ。造形材料は樹脂だけでなく金属も取り扱う。試験設備も置かれている。ファブラボで試作を担当する技術者は「試作段階に必要な設備はだいたいそろっていると感じている。今のところ、試作の依頼が立て込んで待たせるということも起きていない。刈谷など他の研究開発拠点の設備を借りることも可能なので、設備として不足することはないだろう」と説明した。

身の回りのちょっとしたことも自作

 東刈谷イノベーションセンターには、解析技術研究部の中で画像や音の認識、データ分析を担当するメンバーが全員在籍している。FFR部のメンバーとの共創だけでなく、生産現場の要請など直近の事業に直結する業務にも取り組む。また、フリーアドレスの中でスタッフがどのエリアにいるかを画像認識で把握する仕組みや、社員証に元から内蔵されたICチップを使ってコーヒーサーバーの代金を支払うシステムなど、身の回りのものを自作するスタッフもいる。

拠点改装中の映像を題材に物体認識を行っている(左)。顔認識で誰がフロアのどこにいるか表示するシステムはスタッフのお手製(中央)。実機の動き方や使い方を検証する設備も整っている(右)(クリックして拡大)

 AIを扱える人材の採用が難しくなっていることから、ジェイテクトは海外でも採用活動を展開する。現在、解析技術研究部の12%が外国籍だという。採用では日本語を話せることにもこだわらない方針だ。現在、IT業界の中ではモノづくりに関わりたいというエンジニアが増えており、採用のチャンスが全くなくなったわけではないという状況だという。採用するだけでなく、社内の人材がAIを扱えるようにする教育も並行して実施している。

 ジェイテクトの研究開発本部では、これまでにパワーアシストスーツ「J-PAS(JTEKT Power Assist Suit)」や、車載向けに動作温度範囲を広げたリチウムイオンキャパシターを新規事業として生み出した。リチウムイオンキャパシターに関しては、「リチウムイオン電池の知識がある人間が社内に少なく、門外漢のメンバーばかりの状態で開発を始めた。電極と電解液の組み合わせを模索する中で、おそらく専門家は選ばないであろう材料に行き着いた。これが動作温度範囲の拡大につながった」という経緯もある。さらなる新規事業の創出に向けて、新拠点で生まれるコミュニケーションが重要な役割を果たしていく。

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