自動運転車はドライバーの認知、判断、操作を代わりに行わなければならない。知覚はセンサー、判断はコンピュータが担う。その意思決定の通りにクルマを曲がらせるための筋肉と小脳はどう代替するか。
ステアリング技術で自動運転車の筋肉と小脳を担う――。自動運転車のセンサーは人間の知覚に、判断を担うコンピュータは頭脳に例えられる。
知覚と頭脳によって決定した制御の通りにクルマを動かす上で、ジェイテクトはステアリング技術が重要な役割を果たすと見込む。2020年の実用化に向けて開発を進めるさまざまな技術を、ジェイテクトの伊賀試験場(三重県伊賀市)で体験した。
自動運転技術がレベル2からレベル3以降に進むにつれて、ドライバーがステアリングから手を離す場面が増えていく。必要な時に自動運転から手動運転に切り替えることが要求され、ドライバーがステアリングを握った運転できる状態であることを検知しなければならない。ジェイテクトはこうした要求に向けて接触センサーではなく、既存の電動パワーステアリング(EPS)の部品を活用する。
かじ取り装置に関する国際基準(R79)では、ドライバーが15秒以上ステアリングから手を離した場合に警告するよう求めており、各社とも15秒以下で手離し状態を検知しようとしている。検知時間は8〜12秒という事例が多く、短い場合でも4秒だという。これに対し、ジェイテクトはEPSのトルクセンサーと角度センサーを使い、約2秒で手離し運転を検知する。
手動運転では、ドライバーの操作と路面からの入力がトルクとしてEPSに伝わっている。接触センサーなしで手離し運転を検知するには、2種類のトルクを識別しなければならない。ジェイテクトはEPS開発のノウハウを基に、ドライバーの操作によって発生するトルクのモデルを構築。路面入力の影響を受けずにドライバーが手を離したことを検知する。
これにより、自動運転中にドライバーが自分で運転しようとステアリングを握ったことの検知も素早く行える。トルクセンサーと角度センサーを活用することで、スムーズな運転の権限委譲も可能になる。
EPSのモーターは、手動運転中は操舵(そうだ)のアシストを行い、自動運転中は操舵の角度をコントロールしており、制御が異なる。単純に自動運転をオフにするだけではトルクの落差が生まれ、ドライバーの不安を招く。同社の開発技術は、ドライバーのステアリング操作によって反力が変わったタイミングでモーターの制御を切り替えることで滑らかに手動運転に移行する。
この技術を搭載した実験車両に試乗してみた。自動運転・手動運転に関わらず車両側で速度を維持し、ステアリングを握ると操舵のみドライバーの操作となる車両だった。速度をシステムが維持している影響もあってか、自動運転から切り替わった感触は全くなく、手動操舵に自然に移行した。
路面からの反力を識別する技術はより高精度な舵角の制御にも生かされている。目標とする舵角と実際の舵角は、路面からの反力やEPSの摩擦によって誤差が生まれる。「思ったよりハンドルを切れていないことは、センサーで現在位置を確認することによって分かるが処理に時間が必要だ。タイヤから伝わる路面の入力でも、ハンドルが切れているかどうかが分かる。センサーの情報を処理する大脳とまでは行かないが、運動機能を調節する小脳の役割はステアリング技術で果たせる」(ジェイテクトの説明員)。この“小脳”による安定した自動操舵で、カメラが検出した障害物を回避して元の走行車線に戻るデモ走行も体験した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.