働き方改革よりも少数精鋭化? 製造業における働き方の変化ママさん設計者と考える「モノづくりキャリア」(後編)(1/2 ページ)

設計者になるまで紆余曲折があった「ママさん設計者」こと藤崎淳子氏だが、現在は未来を支えるモノイストである児童や学生たちの教育に取り組む。藤崎氏と一緒に、これからのモノづくりキャリアについて考えていこう。

» 2018年07月20日 09時00分 公開

 皆さんこんにちは! Material工房・テクノフレキスの藤崎です。前編では、「キャリアとは、経験値を向上させて自分で食べていく力を身につけること」、そして「全ての職業はサービス業であれ」「ムダな経験などない」と、いろいろなお話をしました。

 適性に合った職業に就くことで仕事の取り組み方は能動的になれるはずで、すると「吸収力」を発揮します。成功も失敗も、うれしいことも悔しいことも、経験したことはできるだけ多く吸収して、その先の歩みの糧にしたいですね。これは自身のアイデンティティーの確立にもつながることなのです。

「働き方改革」とは何ぞや

 さて、近ごろ「働き方改革」という言葉が物議を醸しています。先ごろ関連法案が可決されたこともあり、会社勤めの方々の間には「何が変わるのか」「会社はちゃんと対応してくれるのだろうか」といった微妙な空気も流れているようです。

 働き方改革とは、少子高齢化に伴う「生産年齢人口」の減少が、予想以上に深刻さを増しているので、将来にわたる持続的な経済成長のための生産力を維持する目的で打ち出された政策や提唱のことです。そして生産年齢人口とは、国内での生産活動において労働力となる15〜65歳までの人口を指し、日本では、ずいぶん前から総人口に対するこの割合がどんどん目減りしていることが問題視されてきました。

 この生産年齢人口に該当する世代は、国の経済を支える労働力であるとともに、出産・育児や介護といった家庭内の課題を背負う世代でもあることから、従来の勤務形態に縛られず、個々の事情に応じた働き方ができることで離職を抑止し生産力を維持しつつ、出生率の上昇を図り将来の労働力確保へつなぎたいというのが「働き方改革」の中身のようです(関連リンク:総務省|平成29年版 情報通信白書|人口減少社会の課題と将来推計)。

 しかし、働き方改革を進めた瞬間から生産年齢人口がいきなり倍増するはずもなく、当面は労働力不足の解消手段として、一部の仕事は人間に代わるロボットやAI(人工知能)による自動化も進めていかなくてはいけません。でも、ここでちゃんと考えなくてはいけないのが、「労働力」と「労働者」は違うということです。

労働力の代替ならAIができるけど

 労働力の代替はロボットやAIにも出来ます。その半面、それらにどうしても出来ないことがあります。それは、ずばり「納税」と「消費」です。

 経済は循環するので、生産者は消費者にもなりその逆にもなります。だから生産の対極に消費がなければ製品もお金も回りません。いくら生産しても消費されなければ商売にならず、結果的に納税額も増えません。納税額が増えないということは、国の歳入が減り、そのままやり過ごしていれば、やがて社会インフラや行政サービスを維持することができなくなります。そのため、何でもかんでもロボットやAIに置き換えることは不可能なのです。

 数年前から外国人労働者の受け入れを進める動きも活発化していますが、これは、現在のこのいびつな人口構成を埋めて、社会インフラの連続性を断たないための人材としての受け入れでなければ意味がないはずです。政府が叫ぶ「労働力不足」というのは、個々の企業の人手不足というよりは日本国内で税金を納めてくれる人が減っているという点が問題の本質なので、いっそ「税金の払い手不足」と明言する方が、世間の意識も変わる気がするのですが……。

無駄に大きくなった組織は、労働者の自発性をつぶす

 先ほど述べたように、今後日本では生産年齢人口が急速に減っていくのは避けられません。その中でも「製造業はこれからも日本経済の屋台骨であり続ける」。その前提でお話をします。

 「うちは月商2000万円です」という2つの会社があったとします。A社は、一人当たり月商500万を稼ぐ4人の会社で、B社は一人当たり月商1000万を稼ぐ2人の会社です。どっちが生産力が高いのかは明らかですよね。B社は少数精鋭なのです。

 人材豊富な時代には、大量に雇用して組織を細分化して、役割を分担させることで業務効率を上げることが出来ました。この縦割り組織によって統制が取られて、企業の秩序が守られてきたわけです。でも、それによって労働者の自発的思考をつぶしているのも事実です。個々の労働者の能力と資質を見極める体制も機能半分で、適材適所に人材配置できていない現場をいくつも見てきました。

 今後急速に人材が目減りしていく中で生産高を維持するには、組織の壁を取り払って「社内人材の流動化を図る」という手段も講じることになると考えられます。ルーティンワークであっても、自ら思考せず指示に従うだけなのと、作業時間なりコストなりを意識しながら動くのとでは社会的な作用は違ってくると思います。「社内労働力の流動化」という形態の中で“アクティブな生産年齢人口”を維持するには、「自発・自律」を労働の基本として少数精鋭化を進め、思考を必要としない単純作業は、ロボットやAIに置き換えるのが理想的だと私は考えています。

 企業内で労働力の流動化が珍しくなくなると、それが企業間の垣根を超えることにもつながるかも知れません。社内外にネットワークを育てておいて当該ミッションに最適な人選を行い、企業間の協業も一般化してゆくかも知れません。そうなっていくと、人も知能も技術も生きた、質のよい仕事になりそうです。

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