調査報告書の第6章では、「2008年に判明した不適切検査行為とその対応状況(以下、2008年問題)」と題した報告が7ページに渡ってまとめられた。なぜ独立した章として本件を報告したのかは、調査報告書の「2008年問題の対処方法が一連の不適切行為の根本的な発生・継続原因の一つの大きな要素になった」との記載から読み取ることができる。以下、2008年問題の概要を紹介する。
2008年問題とは、当時相次いで発生していた食品偽装などの社会問題を受け、日立化成が独自に行った社内調査で発覚した不適切検査とその後の不適切な対応のこと。本件調査は2008年8〜9月にかけて実施され、顧客と取り決めた検査に対して不順守な製品が機能性材料や電子材料等で33件あることが判明した。報告を受けた当時の同社役員、そして社長は直ちに是正を行うこと、他製品においても不適切検査がないか徹底的な調査を行うこと、是正について顧客交渉が必要な場合は慎重に行うことなどを指示した。
一方で2008年問題の調査とは無関係に、顧客が2008年11月に同社山崎事業所桜川サイトを往査した結果、自動車用部品の検査結果改ざんによる不合格品の出荷などが行われていたことが発覚した(以下、桜川事案)。桜川事案は2008年問題の調査報告に含まれておらず、2008年問題の調査結果が疑われる事態となったため、改めて当時社長が品質保証に関して再点検を指示(以下、2008年問題再点検)した。しかし、2008年問題再点検においても本来報告されるべき不適切行為は報告されなかった。
桜川事案は取締役会や監査役会などで報告され、これら議事録への記載があったのに対し、2008年問題は取締役会や監査役会などの議事録には記載されておらず、これら経営トップの機関で議論された形跡がなかったという。また、桜川事案は関係者が懲戒処分を受けたのに対し、2008年問題では関係者の処分が検討された形跡もなかった。
さらに、2008年問題では当時役員や社長が「是正について顧客交渉が必要な場合は慎重に行うこと」を指示していたにも関わらず、「顧客に対し事実を報告し対応を行うこと」については指示を出すことはなく、結果的に顧客へ不適切検査が行われていたことを報告しなかった。このことについて、特別調査委員会から聞き取り調査を受けた当時役員は、「直ちに顧客へ事実を伝えることによる過剰反応を懸念していた。部下には解決策と一緒に伝えるように指示したはずだ」との旨を話したという。
その結果、2008年問題は調査に関与した人員以外の社内で十分に共有されることはなかった。特別調査委員会のヒアリングで、桜川事案を大変な問題だったと語る役職員が多かったのに対し、2008年問題に関してはほとんどの役職員が記憶にないと述べたという。
2008年問題について調査報告書では、「社内で発覚した以上、公表するかどうかは別として、少なくとも顧客に対して事実を告げて説明することは2008年当時であっても当然に行うべき道理」と指摘。その原因として、顧客からクレームが来ていないため品質には問題ないと考える「品質に対する過信」があったと断じる。
「顧客からのクレームがないことだけで、根拠なく最終製品に不具合が生じないとする品質保証業務をないがしろにする安易な考え」や「製品に不具合が生じなければ契約を違反しても構わないといった顧客軽視の意識」を同社に生じさせてしまった2008年問題は、再発防止の教訓も検討されることなく「風化して忘れ去られてしまった」と調査報告書は記述している。
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