低遅延で通信の切れないワイヤレスオーディオ、可変ビットレート版「aptX」で実現組み込み開発ニュース

クアルコムはBluetoothなど無線技術を用いて音声データを伝送するためのコーデック「aptX」の最新版「aptX Adaptive」について説明。無線環境の良しあしに合わせて自動的にビットレートを可変することで、低遅延と通信の切れにくさを実現したという。搭載製品は2019年半ばから出荷が始まる見込みだ。

» 2018年10月04日 08時00分 公開
[朴尚洙MONOist]
Qualcomm Technologiesのジョニー・マクリントック氏 Qualcomm Technologiesのジョニー・マクリントック氏

 クアルコム(Qualcomm)は2018年10月3日、東京都内で会見を開き、Bluetoothなど無線技術を用いて音声データを伝送するためのコーデック「aptX」の最新版「aptX Adaptive」について説明した。無線通信環境の良しあしに合わせて自動的にビットレートを可変することで、低遅延と通信の切れにくさを実現した。aptX Adaptive対応のデコーダーは、BluetoothオーディオSoCである「QCC5100シリーズ」と「CSRA68100」向けに同年9月から提供されており、エンコーダーは同年12月から「Android P」向けに提供される予定。「aptX Adaptiveを搭載した機器は、2019年半ばから出荷が始まる」(Qualcomm Technologies 製品マーケティング ディレクターのジョニー・マクリントック(Jonny McClintock)氏)と見込んでいる。

 「iPhone」をはじめオーディオプラグを持たないスマートフォンが増え、左右分離型の完全ワイヤレスイヤフォンが注目を集めるなど、ワイヤレスオーディオへの注目と需要は高まっている。マクリントック氏は「有線のヘッドフォン、イヤフォンは、オーディオプラグを挿すだけという操作だけで音声を聞くことができた。ワイヤレスオーディオも、有線と同じようにユーザーが気兼ねなく、意識することなく使えるものにしなければならない。aptX Adaptiveはそのために開発したコーデックだ」と説明する。

 aptXは、クアルコムが2014年に買収を発表したCSRの技術だ。開発から25年以上の歴史があり、スマートフォンや音楽プレーヤー向けとなるエンコーダーは約40億のデバイスに搭載されている。「Android、Windows 10、macOSがaptXに対応しており、これらのエンコーダー搭載デバイスが市場に多数存在する事実が、aptXの普及拡大に向けた基礎になっている」と語る。

 またaptXはシリーズ展開しており、ベース技術となるaptX(「aptX Classic」と呼ぶこともある)、ハイレゾコンテンツに対応する「aptX HD」、データのパケット化などによる低遅延性能を特徴とする「aptX Low Latency」がある。今回発表したaptX Adaptiveは、aptX Low Latencyを置き換えるもので、aptXとaptX HDへの互換性も有している。

「無線環境に対してアダプティブ」

 aptX Adaptiveの特徴は、「ユーザーが意識することなく有線から無線に置き換えられる堅牢な接続性」と「可変ビットレートでデータ伝送することによるオーディオ品質の確保」、そして「ゲームや双方向コンテンツ、映像コンテンツのリップシンクなどを満足する低遅延性能」の3つがある。

「aptX Adaptive」の特徴 「aptX Adaptive」の特徴(クリックで拡大) 出典:クアルコム

 「ユーザーが意識することなく」という点では、音声データのヘッダ情報を読み込むことで、音楽や映像、ゲームといったそれぞれのコンテンツ特性に合わせ込める。「可変ビットレートでデータ伝送」では、良い無線環境であれば高いビットレートに、悪い無線環境であれば低いビットレートに変更する。「無線環境に対してアダプティブなので、接続が切れにくい」(マクリントック氏)というわけだ。

 可変ビットレートの範囲は279k〜420kbpsで、279kbpsだとCD音質、420kbpsだとハイレゾ品質に相当する。音響工学を研究しているサルフォード大学の協力を得て、約30人のエンジニアが200種類のサンプルオーディオを6カ月間聞いたところ、aptX Adaptiveのビットレート420kbpsと、リニアオーディオのハイレゾ(24ビット/96kHz)の間に大きな差異は感じられなかったという結果を得ている。

 「低遅延性能」については、コーデックそのものの処理は2ms以下(48kHz)を実現している。スマートフォンなどで音声を出力してから、ワイヤレスオーディオでイヤフォンなどから出力するまでのシステム遅延性能については50m〜80msとしている。マクリントック氏は「スマートフォンなどで行うカジュアルゲーミングであれば、この遅延性能で十分だ。バッファリングのためにメモリを搭載するよりも低コストで済ませられる」と述べる。

「aptX Adaptive」の仕様 「aptX Adaptive」の仕様(クリックで拡大) 出典:クアルコム

 なお、クアルコムは、左右分離型の完全ワイヤレスイヤフォン向けにBluetoothオーディオSoC「QCC3026」を展開しているが、こちらについては現時点でaptX Adaptiveは対応していないという。

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