マイクロチップの新技術による超並列デジタルバイオ計測医療機器ニュース

東京大学は、標的物質の濃度勾配を形成する機構を実装するマイクロ流路を内蔵したチップを開発することで、デジタルバイオ計測の超並列化に成功した。

» 2018年09月05日 15時00分 公開
[MONOist]

 東京大学は2018年8月10日、標的物質の濃度勾配を形成する機構を実装するマイクロ流路を内蔵したチップを開発することで、デジタルバイオ計測の超並列化を可能にしたと発表した。同大学大学院工学系研究科 講師の渡邉力也氏らの研究グループによる成果だ。

 デジタルバイオ計測は、数万個以上の微小な試験管を集積したマイクロチップを活用し、単一の生体分子から機能や物性を高感度かつ定量的に計測する手法だ。デジタルバイオ計測に利用するマイクロチップは試験管を集積するが、小型のため、それらを並列利用することは困難で、スループットの向上が難しいという課題があった。

 研究グループは、標的物質の濃度勾配を形成する機構をマイクロチップに実装し、チップ上の各試験管に異なる組成の溶液を数秒間で封入する技術を開発。まず、これまで利用されてきたマイクロチップ(24×32mm)上に、直線の流路(幅:2mm、高さ:0.3mm)を設置した。マイクロチップには、容積が数フェムトリットル(フェムトは1000兆分の1)程度の均一な微小試験管を約10万個集積している。

 この流路を標的物質を含む水溶液で満たした後、任意の容量の希釈液を一定の流速で導入すると、流路内の標的物質は移流拡散プロセスによって希釈され、流れ方向に沿って一直線に濃度勾配が流路の底面に形成される。微小試験管は流路の底面にあるため、流路内の濃度勾配に沿って、各試験管に含まれる標的物質の濃度も定量的に変化させることが可能だ。最後に、濃度勾配を形成した後すぐに脂質溶液を流路へ導入し、各試験管の開口部に人工生体膜でふたをする。

 この方法では、流路に導入する希釈液の容量や流速を制御することにより、チップ上の各試験管に封入する標的物質の濃度を10〜1000倍程度の範囲で連続的に変化させることができる。従来のプレートリーダー法とは異なり、1種類の希釈液を数秒間導入するだけで、異なる組成の水溶液を試験管に封入できる。また、1本の流路と電動ピペットで実験が可能で、分析装置への実装の際にコスト削減が期待できる。

 研究グループは、このマイクロチップを用いて、従来不可能だった試験管の並列利用による「デジタルバイオ計測のハイスループット化(超並列化)」に成功。具体的には、まずマイクロチップ上の各試験管に、酵素などの1分子の標的生体分子と任意の濃度の基質を封入する。その後、生体分子による基質の分解反応に伴い、試験管の中に反応生成物が蓄積し、濃縮される。生体分子の反応に伴って蛍光を発する基質を利用すると、蛍光強度の増加速度から生体分子の反応速度を定量的に測定できる。

 実際に、従来のバイオセンサーに汎用されてきた酵素(ALP)に対して、1枚のマイクロチップから、さまざまな基質濃度での反応速度を並列測定することに成功した。これにより、基質の結合速度定数などの酵素の基礎データを容易に取得できる。生体膜を各試験管に実装するため、市販薬の主な標的である「膜タンパク質」でのデジタルバイオ計測の超並列化にも応用できることも実証した。

photo 直線流路を実装したマイクロリアクターチップ。(a)マイクロチップの外観。(b)模式図。フッ素樹脂の薄膜の中に約10万個の微小試験管を集積している。(クリックで拡大) 出典:東京大学
photo マイクロチップ上での標的物質の濃度勾配の形成。(a)流路の入口からの距離と微小試験管に封入された標的物質(緑色蛍光色素:Alexa488)の蛍光画像。(b)流路の入口からの距離と試験管に封入される標的物質の希釈率の関係。(クリックで拡大) 出典:東京大学
photo ALPを標的とした超並列バイオ計測。(a)ALPを標的とした超並列バイオ計測の模式図。(b, c)計測開始から15分後の試験管の蛍光画像と蛍光強度の経時変化。(d)封入した基質濃度とALPの加水分解速度の相関計測結果。(クリックで拡大) 出典:東京大学

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