次に、基礎研究や応用研究などの成果である論文被引用数を見てみよう。過去15年間に、科学分野全般において最も多く引用された論文(論文被引用数上位10%のもの)について、各国のシェアは、米国が25%、次いで中国が14%を占めた。この2か国に次いで欧州主要国の占める割合が高い一方、日本は3%と低く全体では7位となっている。
例えば、AIの技術として用いられる機械学習に関する論文についてみると、論文発表数では米国がトップであるが、次いで、中国、インドが続いている。このように、米国や欧州主要国のみならず、中国やインドなどの新興国も、影響力の強い科学分野での取り組みを積極化させている一方で、日本は、欧米の主要国や中国などと比べて、相対的に低い立ち位置にとどまっている。
世界で上位5つの国・機関の特許庁(IP5)で特許認定された発明数では、AIに関する特許件数は、2010年〜15年にかけて毎年平均6%程度増加しており、全特許のうち、年間平均増加率の約2倍の増加率となった。このAI関連の技術特許件数の国別シェアをみると、2014年までの時点では日本が33%とトップであり、次いで韓国が20%、米国が18%となっている。
第4次産業革命の技術的イノベーションを進展させる技術として、ロボット化の度合いと、それを効果的に活用するための労働者のスキルを比較してみた。まず、製造業の付加価値額に対する産業用ロボット(ストック額)の比率をみると、日本は、韓国に次いで世界第2位となっており、製造業におけるロボット化が進んでいることが分かる。
次に、労働者1000人当たりのロボット数と、労働者のICT関連技術を有効活用するスキルを示すICTタスク集積度の相関関係について、国や地域ごとのプロットをみると、日本や韓国、ドイツ、米国など製造業の活動が活発な国においては、双方の指標が高い。これは、ロボット化の進展とともに、それを有効活用するためのスキルも高くなっているという、補完性があることを示している。
これらを見ると、企業で働く研究者の割合が高く、ICTやAIの特許シェアが国際的に高いことから、日本における新技術の実用化の能力は高いと考えられる。日本におけるイノベーションの源泉となる「イノベーションの基礎力」は、諸外国と比較しても、相応に存在していると考えられる。
一方で、国際的に引用される論文の少なさや国際的な研究者の交流の少なさについては、革新的なアイデアを創出する上での課題であると考えられる。
こうした「イノベーションの基礎力」を有効に活用し、プロダクトイノベーションや生産性向上につなげていくためには、組織の見直しや教育訓練、起業家精神の発揮、イノベーションを促す制度的な枠組みなど、イノベーションに適合するための対応が必要となる。
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